ただ、現時点では少し慎重になる必要がありそうだ。というのも、歯科疾患と認知症などを発症する脳機能との関係性は、大きく分けて2つの考え方があるからだ。

「1つ目は、高齢者など歯が抜けてかみ合わせ機能がなくなり、かむという行為がなくなった結果、脳に刺激が入らず機能障害が出るのではないかとする考えです。これは『廃用萎縮』といわれ、使わなくなった器官の組織が萎縮して機能不全に陥るという考えです。寝たきりの高齢者の筋肉などがその典型で、いざ立ち上がろうとしても力が入らなくなるのと同じ考えです。2つ目は、歯周病による感染や炎症の波及で、今回の一連の報道もこの考えに基づいています。ただ、多くの研究に見られるように、今回行われた実験も特定の細菌種(今回は歯周病菌)を多量に動物に投与して行動パターンを見るというものでしたが、実際の歯周病ではそのような非生理的血中濃度の上昇を伴う持続的な菌血症は見られません」

 菌血症とは、血液を通して菌が体内に入る現象のことである。

「菌血症は歯ブラシをしただけでも一過性に起こります。歯科治療でも起こるとされます。ただ、通常30分もしないうちに、血中に入った菌は検出できなくなるとされています。特に血中から脳へは『血液脳関門』と呼ばれるバリアがあり、物質は簡単に脳内に入れません。歯周病による局所の感染症(炎症)で一過性に菌血症が起きたとして、他の組織に影響を及ぼすことなく簡単に脳内移行することは考えにくく、どうやって脳内に入るのか、明確な感染経路を示す必要があります」

 西村氏は、現時点で「廃用萎縮」「血液感染」双方の考え方にまだ不明な点が多く残されているため、引き続き基礎、臨床研究の両面からのアプローチが必要であると強調する。

放っておくと怖い歯の感染症
向き合うことがケアの近道

 とはいえ、歯周病はさまざまな病気との因果関係がすでに確認されている。最も有名なのが糖尿病との関係だ。

 糖尿病に伴う症状で菌を食べてくれる白血球の働きが弱まるため、歯周病菌の増殖が早まり、歯周病が進行。加えて、歯周病感染による炎症で血糖を下げる働きがあるインスリンの効果を弱めてしまうので、結果的に糖尿病も重篤化するという悪循環が起こってしまう。