住友商事が、小売り事業で勝負に出た。ネット経由で生鮮食品や日用品を受注し、翌日または指定日に配達するネット専業スーパーを立ち上げたのだ。今年10月の営業開始を予定している。

 大手商社は三菱商事とイオン、丸紅とダイエーというように、小売りとの関係を強化しているが、住商は大手との連携はなく、出遅れ感は否めなかった。一方で総合商社における小売り事業の利益率は他部門より低く、消費低迷で小売り業への出資は保有株の減損リスクが高いのも事実。そこで目をつけたのが他商社とは一線を画すネットスーパーへの進出だった。

 ネットスーパー事業は今後大きな成長が見込まれ、イトーヨーカ堂や西友といった小売り大手もいっせいに充実を図っている。

 だが展開しているのは既存店舗の店頭商品をピックアップして配達する「店舗出荷型」が主流。住商も2007年から子会社の中堅スーパー「サミット」を通じて同方式で展開してきたが、「バックヤードや駐車スペースなど制約が多く、事業規模を追求できない」(住商リテール&ウェルネス事業部)とジレンマに直面していた。

 そこで住商は、他社が躊躇していた「センター出荷型」で勝負をかける。08年末に住商ネットスーパーを設立、無店舗ながら専用の加工、配送センターを備えたこの方式は、初期投資が数百億円規模とハードルが高く、他社は二の足を踏んでいた。

 ネットスーパーの市場規模は数百億円程度と見られるが、住商は首都圏で大規模に展開する方針で、10年後の年間売上高は1100億円と鼻息も荒い。

 ネット専業ではないが、個別宅配事業で年間約1500億円の売り上げを誇り、一都八県の生協が加盟するパルシステム連合会は「われわれはここまでの物流システムを構築するのに30年かかった。インフラ整備が鍵になる」と見る。

 住商も採算ラインに乗せるには「配送の効率化と、店舗出荷型と比べて多くなる売れ残りの削減が課題」と分析しており、複数の中堅食品スーパーと提携し、地域ごとにネットスーパー運営会社を支援する戦略だ。子会社のケーブルテレビとの連携など、商社の強みを最大限活用する。

 ネットスーパー事業を支援してきた伊藤忠食品が撤退するなど、顧客争奪競争は激化している。ネット事業は、トップが下位に対して圧倒的優位に立つ傾向にあるのは住商も承知のうえ。主導権を握るべく、総力戦を挑む。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 山口圭介)