最先端工場が患う
アップル依存症候群
日本で初めての「アップル倒産」が起きた──。その事件の序章は、昨年8月までさかのぼる。
「アップルは必ず注文してくるはずだ。生産の準備をしろ」
小型モーターが主力の電子部品メーカー、シコー(神奈川県大和市)。白木学社長は、アップルからiPhone4S用の大量発注がないことに苛立っていた。同社は世界に先駆けてスマートフォンの小型カメラに使う、自動焦点用モーターを開発。アップルが指名買いをした“特別な存在”という自負があった。
おカネもつぎ込んだ。前年には公募増資で5億円強を調達。アップルの需要を見越して、クリーンルームの新設や、組み立てに使う大量の顕微鏡の購入費に充てた。
「アップルの担当者からは、増やせ、増やせ、増やせ、と言われ続けていた」(同社関係者)
しかし、事態は思わぬ方向へ動いていく。
「アップルがコストダウンのできない取引先を切っていくらしい」
競合メーカー幹部は同じ時期、そんな情報を耳にしていた。ただの値引き話ではない。コストダウンに必要な先端設備の導入コストに耐え得るかどうか、アップル社員が取引先の財務状況を細かくチェックして回るというのだ。
じつはシコーは2007年ごろ、為替デリバティブに手を出していた。それが円高で、11年には「毎月5000万円のキャッシュが消えていた。それがアップルの目に留まってしまった」(関係者)。