ユニコーン企業を生むのは、
女性・ダイバーシティ・高学歴

出口治明氏「日本を低学歴社会にした責任は100%企業にある」

 日本が近年衰退しているのは、ユニコーン企業が生まれないからだと出口氏はいう。ユニコーン企業とは、未上場で評価額が10億ドル以上のベンチャー企業のことだ。2019年7月末時点で、世界にはユニコーン企業が380社あるが、日本はわずか3社にすぎない。

 ユニコーン企業を生むキーワードは、女性・ダイバーシティ・高学歴の3つだという。

「日本でユニコーン企業がなかなか生まれないのは、その3つが欠けているから。女性についていえば、サービス産業のユーザーは女性が大勢を占めているため、需給ギャップが生じる。欧州をはじめ世界の100カ国以上でクオータ制が導入されていますが、これは需給ギャップを埋めるため。日本の女性の社会的地位は153カ国中121位。これでは女性が望む新しい財やサービスのアイデアはでてきません。ダイバーシティについては、19年のラグビーワールドカップでのワンチームの活躍を見れば誰でも理解できます。日本人だけで戦ってベスト8に入れたでしょうか? 交ぜることでチームは強くなる。ビジネスの世界でも同じことです」

 高学歴については前述したとおり、日本全体が低学歴になっているという事実がある。

 出口氏が率いるAPUは、ダイバーシティを体現している大学でもある。学生のおよそ半分が留学生で、出身国・地域数は92カ国・地域に及ぶ。例えば19年度の卒業生のトップは、インドネシアからの女子留学生で、ハーバードの大学院へ進学した。彼女の夢はインドネシアで大臣となり、同国の女性の地位を世界一にすることだという。

「今、私たちが注意すべきなのは、“異質平等論”という考え方。男と女は違うけれど平等というのは一見開明的なようですが、誤った考え方です」と出口氏は指摘する。

 男女という性差の前にそれぞれの個人差があり、個人差は性差や年齢差を超える。地球上に78億人がいる人間社会は、その個人差のグラデーションで成り立っている。足の速い順番に78億人を並べれば、ウサイン・ボルトを筆頭に全員が並ぶだろうが、そこには男女が混在している。つまり個人差は性差を超えるという当たり前の考え方が何よりも大事なのだ。

「だからGoogleのような優れた企業は、採用に際して、国籍や性別、年齢や顔写真をなくしています。問われるのは、これまでにどんな業績を上げ、現在はどんな仕事をやっているか、将来の希望は何か、だけです。GAFAやユニコーン企業が伸びているのは、マネジメントが科学的で人間に優しいから。日本企業のほうが根拠なき精神論が蔓延していてあまり人間を大切にしていない。だから、衰退しつつあるのです」

若者は
大人の意識を写す鏡である

 若者の意識は大人が決める、というのが出口氏の持論だ。若者は大人の意識を写す鏡であり、日本の若者がだらしないというならば、それは大人がだらしないからであり、若者が内向きだというならば、それは大人がグローバルに活動していないからなのだ。

 世界の新しい企業では、自分の頭で考え、新しいアイデアを創造することを重視する「頭を使う仕事」が中心になっている。世界はとっくの昔にサービス産業中心にパラダイムシフトをしているのに、日本だけが、一昔前の製造業の工場モデルに固執し続ければ、世界に置いていかれるのは必然だ。その構造から早く脱却しなければならない、と出口氏は危機感をあらわにする。

「APUでは、日本人学生も留学生と一緒に寮で生活するので、大いに鍛えられます。留学生たちは、良い成績を取らないと大学院に進学できず、奨学金も貰えないので必死に勉強します。意識が高いというよりも、そういう“仕組み”になっているから。日本人学生も、朱に交われば赤くなるで、勉強に励むようになります。社会に出れば分かりますが、知識は力、ナレッジはパワーになる。だから学生の皆さんには必死に勉強してほしいし、企業は成績を重視した採用を行ってほしい。日本が抱える問題の原因は、全て大人にあると言い切っても過言ではないのです」

 パンデミックの時代、まさに親世代である大人たちの意識の変革が求められている。