コロナ禍で露呈してきた就活市場の地殻変動

 20年度(21年卒)に見られたこうした変化は、一時的なものというより、就活市場の地殻変動の表れではないだろうか。

 これまで多くの日本企業は、大卒生を4月に一括採用し、社内で育成。さまざまな職種や部門に配属し、定期的な移動や転勤を繰り返しつつ、年功序列で昇給・昇進させていく「メンバーシップ型」の雇用システムを基本としていた。

 しかし、バブル崩壊以降、30年に及ぶデフレ経済や急速に進むグローバル化、インターネットをはじめとするデジタル技術の普及、さらには国内の少子高齢化が重なり合い、市場環境や産業構造は激変している。

 今回のコロナショックは想定外の事態ではある。しかし、多くの企業にとって、市場環境や産業構造の変化にどう対応するかは前々からの課題だった。コロナショックは、こうした変化への対応を瞬発的に促したとも考えられるだろう。

 例えば、近年、大手企業における希望退職者の募集といった人員整理の動きが加速している。小売業でネット通販へのシフトが進むなど、あらゆる業界で、デジタルを活用したビジネスの見直し(DX:デジタルトランスフォーメーション)は待ったなしだ。

 新卒採用も、人数を確保すればいいという時代ではなくなってきている。ビジネスモデルや組織体制の見直しと連動した採用戦略が求められているのだ。

 学生の就職意識にも変化の兆しがある。リクルートワークス研究所の調査(2020年6月時点)では、中小企業(300人未満)の求人倍率が、前年の8.62倍から5.22ポイントも低下して3.40倍になった。一方、大企業(1000~4999人)の求人倍率は0.06ポイント上昇して1.14倍、超大手(5000人以上)も0.18ポイント上昇して0.60倍になった。

 求人倍率は、就職を希望する学生数に対する企業の求人数の割合である。学生の人気がなくて志望者が減ったり、好景気で求人数が増えたりすると求人倍率は上昇する。今年(20年度・21年卒)の場合、中小企業の求人数も多少減少したが、希望する学生がそれ以上に増えたために求人倍率が低下したのだ。業種別に見ても、これまでは計画どおりの採用が難しかった流通業(11.04倍→7.28倍)、建設業(6.21倍→6.01倍)などで求人倍率が低下している。

 大きな流れとして、学生の安定志向は続いているが、安易な人気業種志向や大企業志向では将来への不安は拭えないという認識が浸透してきたようだ。学生の一部(トップ層)では、ベンチャー志向や専門スキル志向を強める動きもある。

 つまり、「安定志向」といっても、その中身が企業のブランド(知名度など)を重視するのではなく、経営が安定しているかどうかや働きやすさを考慮しつつ、企業や事業の将来性を見極めたり、さまざまな組織で通用する人材になるための成長機会を重視したりすることに変わってきたのである。そうした「新たな安定志向」が学生の間に広がっているのも、地殻変動の一端といえるだろう。