倉庫に積み上げられた古い商品は、お金が形を変えたもの

カノン 私は商品や売掛金はお金とは別のものだと思っていました。でも、商品も売掛金も、いずれお金に形が変わらなくては商売は続きませんものね。

林教授 その理解で正しいんだよ。倉庫に積み上げられた古い商品はお金なんだ。だが、会計のテキストにはそう書かれていない。その古い商品の金額をどうするかばかりが書かれている。

カノン どういうことですか?

林教授 2年前に100万円で仕入れた洋服の在庫金額は100万円でいいのか。仮に10万円でしか売れなければ、この商品在庫は100万円ではなく、10万円(時価)とすべきとかね。現実はというと、100万円(簿価)のままとしている会社は少なくない。不毛な議論だとボクは思うね。

カノン 先生、すごい迫力……。そうですよね。うちの会社も、何年も前に販売を止めた商品の包装資材が買った金額のままで貸借対照表に載っているんです。私は不思議でならないんですけど。

林教授 君の考えが正常なんだ。だが会計や税の専門家はそう見ない。費用(税務では損金)に落ちるとか、落ちないとか、そんな些末な議論で頭を悩ましている。

カノン 先生も公認会計士ですよね? そんな同業者批判みたいなことを言っていいんですか。

林教授 真っ当な公認会計士は皆ボクと同じ考えだよ。大切なことは、なぜ包装資材の在庫が生じてしまったか、という点だ。

カノン なぜでしょうか?

林教授 おそらく、たくさん買ってくれれば値段を下げると言われたからだろうね。いわゆるボリュームディスカウントというやつだ。

カノン 担当者が仕入業者に騙されたんですね。

林教授 購買担当者だけが悪いのではない。問題は買う側の君の会社にある。営業担当も、社長も含めてね。

林 總(はやし・あつむ)
公認会計士、税理士
明治大学専門職大学院 会計専門職研究科 特任教授
LEC会計大学院 客員教授
1974年中央大学商学部会計学科卒。同年公認会計士二次試験合格。外資系会計事務所、大手監査法人を経て1987年独立。以後、30年以上にわたり、国内外200社以上の企業に対して、管理会計システムの設計導入コンサルティング等を実施。2006年、LEC会計大学院 教授。2015年明治大学専門職大学院 会計専門職研究科 特任教授に就任。著書に、『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』『美容院と1000円カットでは、どちらが儲かるか?』『コハダは大トロより、なぜ儲かるのか?』『新版わかる! 管理会計』(以上、ダイヤモンド社)、『ドラッカーと会計の話をしよう』(KADOKAWA/中経出版)、『ドラッカーと生産性の話をしよう』(KADOKAWA)、『正しい家計管理』(WAVE出版)などがある。