家族システムは、「夫片働き型」モデルを標準形として、企業システムを裏から支える役割を果たしてきた。日本的雇用慣行を根幹にした企業システムが80年代頃まで高いパフォーマンスを示したのは、日本経済がまだキャッチアップ過程にあったことが基本的背景であるが、その陰では主に女性がパート労働者のみならず女子事務職のような短期勤務正社員として、安価で柔軟な労働力を企業に提供していたことを見落とせない。

 不況時には妻や娘が雇い止めや採用抑制のバッファーとなることで、正社員としての夫や父の雇用安定や高賃金が維持されるという裏腹の関係があった。それを背後で支えていたのは、「夫は仕事・妻は家事」という夫片働き型の家族モデルが、文字通りの「標準世帯」であったという状況である。つまり、「企業福祉モデル」という一見企業にとって高価なモデルは、夫片働きモデルという安価な家族モデルと表裏一体で成立していたことが重要なポイントである。

 政府も「ケインズ型企業福祉モデル」のサブシステムとして重要な役回りを演じた。具体的には、市場原理への介入というケインズ主義の考え方に立脚し、①企業の正社員雇用の維持を支える前提としての業界秩序を守るための「公的規制」や「行政指導」、②不況時における景気浮揚・雇用確保のために「公共事業」の追加を行った。

 一方、所得分配機能については消極的な役割しか果たしてこなかった。企業と家族が国民の生活保障的な役割の多くを担っていたためで、「ケインズ型企業福祉モデル」における公的社会保障制度は、母子家庭や当時はまだ割合の低かった要介護高齢者など「社会的弱者」に対する「残余的な福祉」の性格を色濃く有していた。

解体を迫られる
「ケインズ型企業福祉モデル」

 以上みてきた3つのサブシステムからなる「ケインズ型企業福祉モデル」が上手く機能したのは、①経済がキャッチアップ過程にあること、②夫片働きモデルが一般的であること、③高齢者比率が低いこと、が前提条件であった。しかし、周知のように、こうした条件は90年代を経て大きく変わる。そうしたなかで、「ケインズ型企業福祉モデル」は、とりわけ企業にとっての不都合な面が目立ってきた。