一方、「ケインズ型企業福祉モデル」における政府の役割にも問題が生じてきた。業界秩序を守るための「公的規制」や「行政指導」は、キャッチアップ過程が終わり、経済成長のために不連続的なイノベーションが必要になった状況では、むしろ弊害が目立ってきた。

 平成バブル崩壊後の不況局面で、累次の公共事業積み増しを中心とした経済対策が講じられたが、経済再生にはつながらず、国家債務の急激な増加をもたらすだけに終わった。女性の社会進出の一般化は待機児童問題を深刻化させ、高齢者の絶対数の急速な増加は、要介護高齢者の増加を必然的にもたらし、「残余的な福祉」の考えに基づく措置制度の限界を露呈させた(その対応策として、2000年に介護保険制度が創設された)。

なぜ日本は「市場主義3.0」
を追求しなくてはならないか

 以上のように見てくると、現在わが国が直面する格差問題・若年問題を解決し、財政悪化や社会保障制度の不備を是正するには、「ケインズ型企業福祉モデル」の抜本的見直しが不可欠であることがわかるであろう。

 そう考えれば、小泉改革は「ケインズ型企業福祉モデル」において政府が担った機能――①業界秩序を守るための「公的規制」や「行政指導」、②不況時における「公共事業」追加――を解体し、企業の役割を富の生産に専念させようとしたという意味で、正しい方向を目指していた。つまり、市場主義の基本的考え方である「経済システムにおける市場原理の徹底」を明確に打ち出したことは、正当に評価すべき成果であったといえよう。

 ただし、それは「解体」のベクトルが中心で、それに代わる新たなモデルの「創造」のベクトルを明示したものではなかった。企業が不連続的なイノベーションを起こしやすいビジネス環境を積極的にどう整備するのか、企業の「福祉からの撤退」後にいかにして持続可能な社会保障の仕組みを構築するのか、そうしたビジョンが不明瞭であった。したがって、小泉改革後の政権に与えられた使命は、経済システムにおける市場原理の徹底を踏襲しつつ、これらの社会システム面での課題の解決策を明示することであった。