しかし、小泉改革後、とりわけ民主党を中心とする政権のもとで経済システム面での市場原理強化の動きは弱まった。公的金融を縮小させることで、金融面から産業活動に市場規律をもたらすはずであった郵政民営化は停滞した。農産物の価格支持政策から所得支払政策へ転換する、市場メニズム親和的な方向への農業改革は進まず、日本企業のグローバル化の基盤的なソフト・インフラであるFTAやTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)など、自由貿易協定締結の動きは遅々として進んでいない。

 民主党政権下で取り組まれたことで、評価できる動きが全くないわけでもない。具体的には、「全世代対応型」というコンセプトで、現役世代に対する社会保障の重要性が打ち出されことは評価されよう。

 しかし、それを高齢者向けの既存福祉の構造をそのままで追求すれば、社会保障規模が限りなく膨張し、持続不可能に陥ることは避けられない。実は北欧諸国の高齢化はゆっくり進行する局面に入っており、高齢化による社会福祉圧力はさほど強くない。そうしたなかでも、第4回で見た通り、医療制度などでは徹底した効率化が図られており、「市場主義2.0」から「3.0」に向かう動きが見られる。

 わが国では企業福祉が充実していたことの裏腹の関係として、とりわけ現役世代に対する公的社会保障制度が十分でなく、今後、企業が年功賃金を是正するなど福祉からの撤退を徹底するには、政府の積極関与による社会政策の拡充が不可欠になる。

 しかし、わが国の高齢化の急激なスピードを勘案すれば、公的負担の拡充につながる「2.0」では財政が破綻することは必至である。つまり、極力民間の力を活用する「3.0」の方向でしか選択肢はないのである。高齢化スピードが速いがゆえに、欧米が模索している以上の必要性から、わが国は「市場主義3.0」モデルの構築に注力していかなければならないといえよう。(なお市場主義1.0については第2回、市場主義2.0は第3回、市場主義3.0は第4回を参照のこと)

(以上の議論については拙著『市場主義3.0』〈東洋経済新報社〉もご参照ください)