本来、麻疹はワクチンでほぼ確実に予防できる病気だ。

 WHOとユニセフが共同で発行したリーフレット『Emergency Call to Action for Measles and Polio Outbreak Prevention and Response』(はしかとポリオ アウトブレイク予防・対応のための緊急行動)によれば、2000~18年の18年間に2億3200万人がはしか予防ワクチンによって命を救われたと推計されている。

 ただし、アウトブレイク(大規模発生)や死亡数を抑え込むには、初回接種率と2回目接種率を95%以上に維持する必要がある。ところが世界を見渡すと、初回接種は10年以上84~85%のまま伸び悩んでいる。2回目接種は着実に増加しているが、いまだ71%にすぎない。

 2020年、はしかの症例報告は減少した。新型コロナウイルスの世界的流行により、人々の動きが減る一方、感染症への予防意識が高まったためとみられる。医療機関への受診控えのせいで、把握されている症例数が実際より少ない可能性もある。

 では、なぜWHOはこのタイミングで世界に警告を発したのか。

 それは、「ポスト・コロナ」への大きな懸念からである。

 今年11月時点で、はしかの予防接種政策は世界26カ国で停止状態にあり、9400万人以上が接種を逃すリスクにさらされている。接種率が50%程度にまで落ち込んだ国々もあるという。各国とも新型コロナウイルス対応を優先している。だがそうした多くの国で、はしかのアウトブレイクは現在進行中だ。

 新型コロナウイルスのワクチンが順調に普及すれば、半年~1年程度で、世界中で人々の動きが大幅に戻ってくるだろう。その時こそ、はしかアウトブレイクの危機である。それでは遅い。現在のワクチン政策によって、明暗は大きく分かれるに違いない。

インフルの10倍!
圧倒的な感染力

 はしかのワクチン接種の重要性は、率直に言えば、新型コロナの比ではないと考えている。ざっくり以下のような理由だ。

◎インフルエンザの10倍ともいわれる、驚異的な感染力
◎感染すれば、90%が発症する
◎肺炎や脳炎など、3割の人に合併症が起きる
◎かかってから7~10年後に発症・死亡する合併症も
◎免疫系にダメージを与え、他の病気への抗体を減少させる

 麻疹の感染力は、他に類を見ないほど強い。感染力の指標には「基本再生産数」(R0)が使われる。「ある感染症の免疫のない集団に発症者が1人いたとき、何人に感染が広がるか」を示す数値だ。