大ベストセラー『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(1979年)の著者として知られる社会学者、エズラ・ヴォーゲル・ハーバード大学名誉教授が12月20日に逝去した。ヴォーゲル氏は日本語と中国語を自在に操り、現地の人々と交流し、研究を深めてきた。『ジャパン・アズ・ナンバーワン』は、日米貿易摩擦が激化していた当時、戦後の日本が高度成長を遂げた要因について社会や企業、家庭のありかたを分析した内容で、本来の目的は「米国への戒め・参考になること」だったという。晩年、ヴォーゲル氏と親交が深く、共著をまとめた加藤嘉一氏に先生との思い出を寄稿してもらった。
ヴォーゲル先生に捧ぐ追悼文
最後にヴォーゲル先生のお顔を見たのは、ほんの5カ月前の2020年7月のこと、先生が90歳の誕生日を迎えられたときであった。Zoomの画面を通じてであったが、お元気そうに見えた。これから、胡耀邦(中国共産党の改革派指導者だった元総書記)に関する本を書く、21年1月に成立する米国新政権に対中政策を提言するための準備をしていく……と、いつものように使命感とバイタリティーに溢れていた。
私は、先生が、鄧小平に続いて胡耀邦の伝記を綴られるのを楽しみにしていたし、それが出版されることを疑わなかった。先生がそのためにどれだけの準備をされてきたかを知っているだけに、残念でならない。一番悔しい思いをしているのは先生ご自身だろう。
先生が常々痛烈に批判していたトランプ政権が退場し、バイデン新政権が誕生する情景を見ることもかなわなかった。先生は愛国者だった。祖国を愛し、同胞がより安全で、豊かな暮らしをするために、中国を、日本を研究し、異国の言葉を学び、使い、私たちと付き合うことを通じて、多言語で発信し、独自の知識人像を作り上げたのだ。
これまでの中国研究、日本研究の全てを凝縮させた知の結晶を、バイデン新政権に送り届けるつもりだったに違いない。私も自分のことのように悔しく、無念である。こんなことを言える立場にないが、先生にお世話になった、先生を目標とする一人の人間として、先生の分まで、真剣にバイデン政権のアジア政策、そして米国の今後を見つめようと思う。