昨年、国際宇宙ステーションの日本の実験棟「きぼう」が設置され、明るい話題となった。そのとき搭乗した宇宙飛行士の土井隆雄氏が着用したTシャツに、東レのナノテク繊維が使われている。
東レは2005年度から宇宙航空研究開発機構(JAXA)の研究プロジェクトに参画し、日本女子大学の多谷淑子教授やスポーツ衣料のゴールドウインと共同で、肌着やTシャツなどの開発に当たってきた。
Tシャツとはいえ、宇宙では長時間、着用してもにおいがつきにくいなどの機能が求められる。そこで東レが開発したのは、ポリエステル繊維に東レ独自のナノテク技術で薬剤を浸透させ、抗菌、消臭、防汚、吸湿性、難燃性の機能を持つ素材。現に実験室で3日間、菌が増殖しなかったというデータもある。
ただし、技術の応用力に定評のある東レの面目躍如たる話はこの先だ。「将来的には登山などのスポーツ衣料、介護服に生かせる」(首藤和彦・スポーツ衣料資材事業部部長)と狙い定め、商品化の準備も進めているのである。
多谷教授も、「宇宙では無重力のため着替えがしにくいうえ、くの字の姿勢を余儀なくされる。縫い目が当たらないように、無縫製にするなど、着心地でもいろいろ工夫してきた。その技術やノウハウは介助が必要な重度障害者や寝たきりのお年寄りの衣服に応用できる」と太鼓判を押す。
商品化の第一弾は登山やアウトドア向け肌着と見られている。最も有望なのは介護服市場だ。縫い目による褥瘡(じょくそう)(床擦れ)ができにくく、頻繁に着替えなくてもにおいがつきにくい衣服は、介護の現場からのニーズも高い。
これまでも消臭繊維を使った介護服は存在するが、着心地が悪かったり、効果が持続しないなどの問題があり、さほど普及していない。東レにとってはそこがまさに狙い目。「宇宙での実績を生かし、業界標準の座を勝ち取る」と言う。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 大坪稚子)