「何もしてこなかったから、何もできない」という末路

借金玉 あくまでもたとえ話なんですけど「1000回やったら3回くらい死ぬスポーツ」ってあるじゃないですか。マウンテンバイクで山から猛スピードで駆け下りるとか、激流をラフティングするとか。

 僕自身はああいったスポーツが大好きなんですけど、自分の子どもがあれをやるって言ったとき、親として「がんばって、やってきなさい!」と言えるかどうか。これってけっこう大きいと思うんですよ。実際のところ「下手したら死ぬかもしれないこと」をやらせないっていうのは、「何もやらせない」のと同じなんですよね。

 僕ももう35歳の大人ですから、「問題を起こして欲しくない」という親の気持ちもわかるんです。でも、「問題を起こす」のはもちろん問題ですけど、成長する過程で「起こすべき問題」を起こさなかった子は、後々もっと大きな問題が出てきそうな気がするんです。大学生くらいになったときに、ドバっとその問題が吹き出してくるというか。

 逆に子どものうちは、問題が起こるって言ったって、せいぜい警察に怒られるくらいなんで。

加藤 それはすごくわかりますね。適度に挫折や失敗を経験しておかないと、その方がより問題になる、というのはよくある話ですもんね。

 先ほど触れた「ヘリコプターペアレント」は、親が子どもの失敗を心配するあまり、先回りして障害物を取り除いたり失敗から守ろうとしたりするのですが、アメリカのメアリー・ワシントン大学が2013年に行なった調査では、ヘリコプターペアレントに育てられた大学生はうつ病になりやすいと報告されています。

 東京大学で「失敗学」という新しい学問に取り組んだ畑村洋太郎名誉教授は、失敗を「ワクチン」にたとえ、親は子どもにたくさん失敗の経験をさせることで、心と体に「失敗」という抗体をつくっておこうと唱えています。

借金玉 僕は過保護って「良いこと」と「悪いこと」をはっきり分けるところから始まっていると思ってるんです。「これは危ない」とか「こういうことは恥ずかしいからやめなさい」とか、全部「良いこと」「悪いこと」をはっきり区別しちゃってますよね。

 多くの発達障害の子を見ていると「リスクを過剰に忌避するタイプ」と「何でもやってみちゃうタイプ」に分かれてくるんですが、「過剰忌避のタイプ」の子の場合、親が過保護であることがすごく多いですね。たくさんのことを禁止されてきた、というか。

 そういう子に話を聞くと、「自分は何もしてこなかったから、何もできない」と言うんです。

加藤 それは怖いですね。

借金玉 過保護と禁止はすごくリンクしていて、本当に怖いです。

 学校の通学路を守ることは大事なんですけど、でも「なぜ通学路を守ることが大事なのか」を考えることなく、ただ「それ以外の道を歩くこと」を禁止されて「一生、通学路を歩いて生きる」という子の方がやっぱり怖い気がしますよね。

加藤 私の本では「過保護」と「過干渉」をわけて考えているんです。これは児童精神科医の故・佐々木正美先生の考えに共感するからなのですが、「過保護」は子どもが望んでいることをたくさんやってあげること。一方で「過干渉」は、子どもが望んでもいないこと、むしろ嫌がっていることをやりすぎることです。

 借金玉さんがおっしゃっているのは「過干渉」に近い話だと思うんです。過干渉によって子どもが主体性をなくしていくのは、本当に怖いと感じます。

借金玉 加藤さんの本のなかでも「失敗をしよう」という項目があって、「親が自分の失敗談を話すことも大事」って書かれていたんですけど、そういうのってとても必要だと思います。

加藤 親が積極的に失敗談を子どもに話すと、子どもも「失敗していいんだ」ということを学びますもんね。

借金玉(しゃっきんだま)
1985年、北海道生まれ。ADHD(注意欠如・多動症)と診断されコンサータを服用して暮らす発達障害者。二次障害に双極性障害。幼少期から社会適応がまるでできず、小学校、中学校と不登校をくりかえし、高校は落第寸前で卒業。極貧シェアハウス生活を経て、早稲田大学に入学。卒業後、大手金融機関に就職するが、何ひとつ仕事ができず2年で退職。その後、かき集めた出資金を元手に一発逆転を狙って飲食業界で起業、貿易事業等に進出し経営を多角化。一時は従業員が10人ほどまで拡大し波に乗るも、いろいろなつらいことがあって事業破綻。2000万円の借金を抱える。飛び降りるためのビルを探すなどの日々を送ったが、1年かけて「うつの底」からはい出し、非正規雇用の不動産営業マンとして働き始める。現在は、不動産営業とライター・作家業をかけ持ちする。最新刊は『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』