『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』5万部のベストセラーとなっている、ADHD(注意欠如・多動症)当事者の借金玉さん。まだ34歳だが、その生い立ちは「ジェットコースター」という言葉がぴったりの、波乱万丈な内容だ。
発達障害を誰にも理解してもらえないまま、不登校を繰り返してきた小中高校時代。「このままじゃヤバい」と一念奮起して早稲田大学に進学し、大手金融機関への就職を果たした大逆転時代。しかし結局「普通」の仕事がまったくできずに退職し、起業にも失敗した「うつの底」時代……。
30歳の頃には、死ぬことばかり考えて「毎日飛び降りるビルを探していた」借金玉さんが、どん底から脱することができた理由。それは、生活、そして人生を立て直す「再起」のテクニックをひとつずつ身につけていったからだった。
発達障害の人はどのように、職業の向き・不向きを見分けたらいいのか。自身のしくじり体験をもとに語ってもらった。
(取材・構成/樺山美夏、撮影/疋田千里)

発達障害の僕が失敗から見つけた「向いている職業」「避けるべき職業」

睡眠薬の依存症に……地獄の大手金融機関時代

――新卒で、大手の金融機関に入社されました。そこでの仕事はいかがでしたか?

借金玉 就職活動中、大手金融機関の仕事内容には全く興味がありませんでした。それでも入社を決めたのは、「人並みに真面目に生きる」ことの価値を重んじていた父親に対する当てつけの意味もあったんです(父との関係は以前の記事を参照)。「どうだ、俺だってできるんだぞ!」と、まともにやれない自分に説教をし続けてきた父親を見返してやろうと思って。

 でも実際仕事を始めてみたら、すごく大変でした。

 まず、朝起きられない。だから前日にわざと深酒して、翌朝気持ち悪さで目が覚めるように毎晩飲み続けて、朝ゲーゲー吐きながら出勤するんです。服装も自分はちゃんとしているつもりなのに、上司にスーツから靴から何もかも注意され、「やる気あんのか?」と毎日怒られる。

 一方で、周りの人は、僕とは正反対の「言われたことをちゃんとできるエリート」ばかり。事務のミスを頻繁にする人なんていませんから、僕はすぐに「仕事ができない人」というレッテルを貼られてしまいました。まあ、レッテルでもなんでもなくごく普通になんにもできてなかったんですけどね!

 極め付けは、1億円と書くべき書類のゼロの数を書き間違えて10億円と書いてしまって……。いまだに、めちゃくちゃ怒鳴られてる夢を見て、飛び起きることがあります。あの頃は本当に地獄のような日々でした。

――最終的には、何がきっかけで退職を決めたんですか?

借金玉 毎日自炊どころではなくなって、ろくなものも食べていない。お酒の量はどんどん増えて、部屋で飲み散らかしたアルコールの缶がゴミ袋に7袋くらいになっていました。完全な汚部屋です。

 それから本当に良くないことですけど、不眠から逃れるために睡眠薬とアルコールの併用もしてしまっていて……。今振り返ると、完全に「依存症」だったと思います。

 さっさと「これはもう無理だ」と思い切ればよかったんですが、なかなかそうも決断できなくて。2年ももたずに退職してるわけですが、最後の方は「無駄に引っ張ってしまった」感じがありますね。

発達障害の僕が失敗から見つけた「向いている職業」「避けるべき職業」借金玉(しゃっきんだま)
1985年、北海道生まれ。ADHD(注意欠如・多動症)と診断されコンサータを服用して暮らす発達障害者。二次障害に双極性障害。幼少期から社会適応がまるでできず、小学校、中学校と不登校をくりかえし、高校は落第寸前で卒業。極貧シェアハウス生活を経て、早稲田大学に入学。卒業後、大手金融機関に就職するが、何ひとつ仕事ができず2年で退職。その後、かき集めた出資金を元手に一発逆転を狙って飲食業界で起業、貿易事業等に進出し経営を多角化。一時は従業員が10人ほどまで拡大し波に乗るも、いろいろなつらいことがあって事業破綻。2000万円の借金を抱える。飛び降りるためのビルを探すなどの日々を送ったが、1年かけて「うつの底」からはい出し、非正規雇用の不動産営業マンとして働き始める。現在は、不動産営業とライター・作家業をかけ持ちする。最新刊は『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』

自分には何が「できないか」を徹底的に見極める

――『発達障害サバイバルガイド』の中にある、「自分に向いていない仕事を徹底的に避ける」というアドバイスは、発達障害のあるなしに関わらず誰もが一度は自覚したほうがいいと思いました。借金玉さんは金融機関での大失敗を経て、飲食店の起業、不動産営業と職業を変えていますが、失敗したからこそわかった大事なことはありますか?

借金玉 一番大切なのは「自分は何ができないか」を解像度高く知ることです。解像度=物事を見るときの密度、精密さという感じですかね。ぼんやりと「僕は仕事ができない」みたいな分析じゃなくて
・「事務仕事」では必ず1分間に1度はミスをする
・「マルチタスク」でバグってしまう
・意図がわからない「丸暗記」を強要されると仕事が覚えられない
という感じで、「できないこと」を紙にばーっと箇条書きにしていくんです。

 これを考えるときに「過去に失敗した実例」ほど役に立つものはありません。失敗を振り返るのは辛いけれど、自己分析にとっては最高の材料です。実際に働いてみてダメだったエピソードを思い出して書き出すことで、自分が本当に何に向いていないかがかなり詳細に見えてきます。