『子育てベスト100』著者の加藤紀子さんは、借金玉さんの著書『発達障害サバイバルガイド』について、「当事者向けに書かれた本だが、実は子育てにも使える」「親が感じる“子どものことをわかりたい”“でも、どうしたらいいかわからない”という悩みに、具体的でわかりやすいヒントを教えてくれる良書」と、この本を絶賛しています。
今回、この二人の対談が実現。「子ども」「親」それぞれの立場から、発達障害と子育てについて語ってもらいました。(取材・構成/イイダテツヤ、撮影/柳原美咲)
※第2回はこちら:発達障害の僕が「親にして欲しかったこと」「してほしくなかったこと」

発達障害の僕から「自分の子は発達障害?」と悩む親に必ず伝えたい2つのこと

子育てノウハウには「できない場合」が抜け落ちている

加藤紀子さん(以下、加藤) 借金玉さんの『発達障害サバイバルガイド』を読ませていだだいて、「これって、子育てにも使えるな」とすごく思ったんです。

 子育てに関する本や記事を見ていると「これで成績が上がりました」「○○ができるようになりました」というノウハウはたくさん載っているんですけど、「それぞれの子どもに合う、合わないがある」という前提のところがけっこう抜け落ちていることが多いんです。

 だから、子育てをしている多くの親たちが「みんなはできているのに、どうしてうちの子はできないの!」と悩んだり、苦しんだりしていると思うんです(私自身もたくさん取材をしているジャンルなので、反省も込めて)。

 でも、借金玉さんの本は「できないことを前提としている」というか、「できない人がいる」ということを踏まえていて、子育てにおいてもとても大事な視点だな思いながら、読ませていただきました。

借金玉 ありがとうございます。たしかに、そこは大事だと思っています。たとえば「習い事に行く」というだけでも、それが根底からできない子っているんです。

「決まった時間に、決まった場所へ行く」ということが完全に不可能っていうか。子どももそうですし、大人でもいますから。そういう意味でも「できない人もいるからね」という前提はとても大事だと思います。

加藤「決まった時間に、決まった場所へ行くことができない」とか「毎日同じことができない」というのも発達障害のひとつの特性なんですか?

借金玉 はい。毎日同じことができないタイプもいれば、極端にルーティンにこだわって、毎日すべてが同じでないと気がすまないというタイプもいますね。かと思えば僕のように、絶対予定通りに物事を進められないというタイプもいますし。今日だって、加藤さんに初めてお目にかかるのに、持ってこようと思っていた名刺を忘れちゃうし……(笑)。

「頑張らせた結果、すべてがダメになる」を避けよう

加藤 一言で発達障害と言っても、いろんなタイプに分かれているっていうことを、まずは親御さんとか、周りが知っておくのは重要ですね。

借金玉 そうなんです。ASD、ADHDと、もちろん分類はされていて、診断も出る。ただ実際に会ってみると、結構症状が混ざり合っている人が大半です。ライフハックを書く身としても、そこが困るところなんですよね。

加藤 精神科医の先生も「混ざってる」ってよく言いますね。

借金玉「私はADHDでASDの症状はまったくないです」と言う人が、吸ったタバコを全部きちんと格子状に並べていたり、「私はASDで、ADHDは全然ないです」という人が、座っている時に机の下で僕の足をガンガン蹴っていたりしますから。

 そういうのを見ていると、診断ってあまり意味がないよなあと思うこともあります。

加藤 借金玉さんが本にも書かれていますけど、発達障害そのものがどうかというより「二次障害(※発達障害で社会適応ができないことなどが引き金になって起こる障害。うつや双極性障害などが多い)の方が人生への負の影響が大きい」ということも、知っておいた方がいい大事な部分ですよね。

借金玉 本当にそうですね。うつになったら本当に動けなくなりますから、二次障害が出て動けなくなるのが一番悪いかな、と僕は思います。

 小さい頃からいろいろ頑張らせた結果、すべてがダメになるってこともあるので「二次障害が出なければ全部OK」くらいの気持ちの方が、特に発達障害児にはいいと思います。

発達障害の僕から「自分の子は発達障害?」と悩む親に必ず伝えたい2つのこと借金玉(しゃっきんだま)
1985年、北海道生まれ。ADHD(注意欠如・多動症)と診断されコンサータを服用して暮らす発達障害者。二次障害に双極性障害。幼少期から社会適応がまるでできず、小学校、中学校と不登校をくりかえし、高校は落第寸前で卒業。極貧シェアハウス生活を経て、早稲田大学に入学。卒業後、大手金融機関に就職するが、何ひとつ仕事ができず2年で退職。その後、かき集めた出資金を元手に一発逆転を狙って飲食業界で起業、貿易事業等に進出し経営を多角化。一時は従業員が10人ほどまで拡大し波に乗るも、いろいろなつらいことがあって事業破綻。2000万円の借金を抱える。飛び降りるためのビルを探すなどの日々を送ったが、1年かけて「うつの底」からはい出し、非正規雇用の不動産営業マンとして働き始める。現在は、不動産営業とライター・作家業をかけ持ちする。最新刊は『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』