リーダーシップのベスト・プラクティス
実質的に、ほぼすべての企業と研究機関のリーダーシップ開発プログラムは同じモデルに依拠している。これを定型モデルと呼んでおこう。このモデルは、さまざまなリーダーシップの手法をすべて集めることを試み、標準から大きく外れたものを削ぎ落とし、残りを公式としてまとめたものである。
リーダーシップ開発の分野で悪戦苦闘する私たちのような人間から見ると、この定型モデルのやり方は次のように思える。
まず、最も成績のよい人々を招集し、彼らが得意なテクニックや技量について彼らの知恵を借り、そのテクニックを「リーダーシップ能力の公式」へと体系化する。
次に、他の管理職がそのリーダーシップ能力を理解しているかを360度調査によって評価する。この公式を成績評価に応用し、その評価を後継者育成計画というはしごの一段一段に印をつけるために用いる。この公式は人材管理ソフトウエアに組み込まれたうえで、さらにオンライン学習プログラムの中身となったり、企業内大学のパンフレットの見出しに使われたりするわけだ。
これらすべての背景にある考え方は実に簡単だ。正しいリーダーシップの方法が存在する、という考え方である。リーダーシップのベスト・プラクティス(最優良モデル)が1つ存在する、というのだ。一度それを発見して公式化してしまえば、後は対象者をその公式に従わせるだけでリーダーシップ開発は完了だ。
しかし、本当にそうなのだろうか。リーダーシップ開発とはそのようなやり方ではなく、1人ひとりに合わせて行うべきではないのだろうか。答えはイエスである。ただし、次の2つの条件が当てはまるならば、であるが。1つ目は、万人向けのリーダーシップというものは存在しないこと。すなわち、リーダーシップのベスト・プラクティスは存在しないということ。2つ目は、タイプの異なるリーダーごとに、それぞれにふさわしい内容のトレーニングを提供できるシステムを構築することが現実的に可能なこと、である。
リーダーシップは人によって異なるはずだという1つ目の考え方は、おそらくあなたにも明らかだと思えるだろう。あなたはリーダーにふさわしいかどうか査定を受け、ある種の長所を持つと判断され、それを活かすよう促されたことがあるかもしれないからだ。あるいは、成功したリーダーの事例をこれまでに十分見てきて、彼らが互いに似ているわけではないと気づいたからかもしれない。もしまだ気づいていないなら、ラルフ・ゴンザレスの事例を見てみよう。
私は数年前、家電量販店ベスト・バイの優秀な管理職に関する調査を行っている際に、ラルフと面談した。彼は、ベスト・バイで最も売上げの低かった店舗の1つを表彰式の常連に生まれ変わらせたスターであった。収益から採算性、従業員の意欲に至るまでほぼすべての指標で、彼は自分のチームを下位10%から上位10%へと引き上げた。これほど劇的な変化を成し遂げるためにいったい何をしたのかと私は尋ねた。
ラルフは、若かりし頃のフィデル・カストロに自分が似ていることを利用したと答えた。彼は自分の店舗をスペイン語で「革命」と呼び、休憩室に「革命宣言」を貼り出し、主任に軍服を着せた。私が必死でメモを取っていると、今度はホイッスルについて語り始めた。
彼はこの店舗でも実際には優れた慣行が行われているのだという事実を従業員たちでほめ合う手段を使って与えたいと思った。しかもそうした優れた慣行は常に行われている、と気づいてほしいと思ったのだ。
そこで彼は従業員全員にホイッスルを支給し、だれかがよいことをしているのを見たら吹くよう指示した。自分の見た人が上司でも他の部署の従業員でも関係なく、だれかが卓越した働きをすればホイッスルを吹くことにした。「店内がずいぶん騒がしくなりませんでしたか」と私が問うと、「たしかに」と彼はカストロのようにニヤリと笑って答えた。
「しかし、職場が活気づき、私も元気が出ました。何とお客様まで元気になったのです。みんな気に入っていましたよ」
このイノベーションに感銘を受けた私は、共著『さあ、才能に目覚めよう』(注1)にこのエピソードを書いた。しかし、その後に何が起きたかはその本に記さなかった。
【注】
1)Marcus Buckingham and Donald O. Clifton, Now, Discover Your Strengths, Free Press, 2001. 邦訳は2001年、日本経済新聞社より。