コロナ禍やデジタル化といった激動期を迎えた会計士。業界団体である日本公認会計士協会の手塚正彦会長は、変化する社会のニーズに対応し、会計士自身も変わっていく必要があると説く。特集『激動!会計士』(全12回)の最終回では、手塚会長に業界が抱える課題や展望を聞いた。(ダイヤモンド編集部 重石岳史)
「悪意を持った人」が不正会計に手を染める
コロナ禍で想定すべき最悪のシナリオ
――新型コロナウイルス感染拡大の収束が見通せない中、3月期決算シーズンを迎えます。日本公認会計士協会としてどう臨みますか。
リモート環境での監査が相当難しいことは間違いない。例えば本当にリモートで在庫のチェックができるのか、ウェブ上での残高確認は可能なのかなど、協会でプロジェクトチームを立ち上げ、議論を重ねてきました。
2020年度で分かってきたのは、業種によってはコロナ禍で業績が非常に低迷している会社があることです。
19年度は業績の悪化が顕在化しない中での決算だったので、実は不正のリスクは小さかった。そういう意味では今年度の方が、悪意を持った人が不適切な会計をするインセンティブが高まっていると思っています。
その状況で証拠書類をデジタル化する、あるいはデジタル化したデータを受けるときに真正性をどう確認するかなど、監査の現場で必要な留意事項は協会としてきちんと発信していきます。
またリモート監査には情報システム環境の整備が不可欠ですが、それができている企業や監査法人はそんなに多くない。上場企業もそうだし、大手や準大手の監査法人はなんとかなるかもしれないが、中小規模の監査法人もたくさんあります。企業も監査法人も、できるだけ早く環境を整えなければいけない。
――投資余力がない中小の監査法人も多いと思います。
例えば(監査法人)トーマツさんが開発したウェブ上の残高確認システムを譲り受け、大手4法人が共同運営する合同会社を設立しました。システムを使いたい監査法人に開放すると言ってくれている。
そうした業界全体の取り組みにより、一法人では不可能なこともできる。協会としても可能な限りデジタル化をサポートし、まずは誰もがリモートワークできる環境を整え、将来的には高度なAI(人工知能)を使った財務分析ツールも実装していきたいと考えています。
――コロナ禍で想定する最悪の事態は何ですか。