厚労省、方針転換の背景
「審議会では継続利用が強調されていることとパブリックコメントの結果が大きく影響した」と厚労省は弁明する。7月に発表した省令案に対しての国民への意見公募(パブリックコメント)が8月下旬から1カ月間行われた。寄せられた1000通以上の大部分が反対意見だったという。
実施される改正省令では対象の要介護者はかなり減った。試算してみる。すべての要介護者とはいえ、サービスBには身体介護や送迎などが原則伴わないので、要介護2までの軽度者の利用に限られるだろう。要介護1と2の認定者は約250万人に及ぶ。一方、サービスBの利用者は、実施全市町村の統計はないものの、2019年3月時点で多くても約2万人と推測できる。そのうち要介護者に認定が変わるのは、多くても2~3%とすると500人前後となる。4月からの新制度が施行されても、あまりにも対象者は少なく、大勢に影響はなさそうだ。
認知症本人と家族の会では、「それでも、要介護者に門戸を開けたことに変わりはない。蟻の一穴という言葉があるでしょう」(鈴木森夫代表理事)と、将来の「軽度者外し」につながる可能性を指摘する。
一方、厚労省の方針転換に異議を唱え、11月2日に厚労省へ緊急提言をしたのは公益財団法人「さわやか福祉財団」。地域でのボランティアによる高齢者への助け合い活動を支援してきた。
緊急提言のタイトルで「希望するすべての要介護者に助け合いによる生活支援(総合事業の補助によるサービス)を」と謳う。この総合事業のサービスは、訪問型のサービスBとD、それに通所型のBである。これらのサービスは、同財団の掲げてきた「助け合い」と重なる。連携する各地のNPO法人などが総合事業に取り組んでいる。
緊急提言と同時に発表した「経緯と要望理由」では、厚労省の7月の説明で「多くの助け合い活動者が期待を寄せ、要介護者の希望に沿うべく準備をしておりました」と記す。それが、継続利用者に限定されることになり、「『助け合って自分らしく生きたい』という希望を奪う政策変更」と断じ、提言でも「相当数の要介護高齢者が安心と尊厳(生きがい)ある生活を獲得する道が、いわれもなく塞がれてしまいました」と訴える。
京都府精華町でサービスBを手掛けるNPO法人「みんなの元気塾」の古海りえ子副理事長は「継続者に絞られがっかりしました。地域の誰でもが来られると思っていたのに」と肩を落とす。古民家を活用して週に4日、要支援者たちを受け入れる活動を続けている。「地域の居場所としての考え方が取り入れられればいいのに」と話す。
同財団の提言では、「介護給付を総合事業に移行するための布石」という反対論に対し「ありえない憶測に基づく主張」と反論する。というのも、「助け合い活動は生活支援の範囲に止まっており、要介護者に欠かせない身体介護を行わないのだから、介護給付に取って代われるはずもない」と言う。
さらに「総合事業全体を考えても、介護給付に代えるのは不可能であり、布石の打ちようもない」とダメを押す。
また、「要介護者には専門職による介護給付が必要」とする考え方には、「助け合いによる生活支援は適格性のある一般人が行う」とし、「精神的交流を重視して、自己肯定感を高め、生きがいをもたらします」とその意義を強調する。
こうした総合事業を巡って軽度の要介護者の移行問題が議論される背景には、今後、団塊世代への介護サービスが増えるのは必至で、それに見合う費用が追い付くのかという大きな問題があるからだ。消費税の据え置きを決めてしまったため、保険料の増大による財源拡大には限界がある。制度維持には、サービスの縮減に向かわざるをえないとの見方が大勢だ。
財務省の財政制度等審議会は、要介護軽度者向けのサービスの地域支援事業への移行を提言している。要支援者の総合事業への移行はその呼び水とも位置付けられる。であれば、実質的な対象者は極めて少なくても、今回、形式的には移行の道筋がつけられたとする考え方も否定し難い。
介護保険制度を世界で初めて組み立てたオランダでは2015年に国から地域への移行を進めた。介護保険に相当する国のAWBZによる通所介護など介護サービスの大半を自治体が所管するWMO(生活支援法)に移し、地域ボランティアの出番を増やした。日本でも「介護保険は地方主権の試金石」と言われた当初の考えに立ち戻る時を迎えたようだ。
(福祉ジャーナリスト 浅川澄一)
訂正 記事初出時より以下の通り表記を改めました。
タイトル:介護保険「統合事業」 の対象者拡大に批判が殺到する理由→介護保険「総合事業」 の対象者拡大に批判が殺到する理由
4段落目:統合事業では、ガイドラインに沿って、内容ごとに区分を行っている→総合事業では、ガイドラインに沿って、内容ごとに区分を行っている
見出し(3番目):統合事業の対象者、拡大の理由→総合事業の対象者、拡大の理由
(2020年2月2日9:43 ダイヤモンド編集部)