センサーによる監視で
変わる検査のあり方

 現在は地上側のデータ収集装置の設置作業やネットワークの改修などを行っており、設備へのセンサーの取り付けは来年度下期から着手。来年度はまず踏切設備、駅間の信号機(閉塞信号機)、電気融雪機の電流・電圧計を設置する。

 地上設備やセンサーの設計には鉄道ならではの苦労があったそうだ。「鉄道沿線は振動があり、夏は暑く、冬は寒い。電源がない場所では電池を使わねばならないため省電力で、検査データを取得するという目的上、高い信頼性も必要になる。また、自社通信網に接続して使用することからセキュリティーも確保する必要があった」と高月課長は語る。さらに今後、新たなセンサーが開発されることも見越して拡張性も意識しているそうだ。

 これだけの大掛かりなシステムにもかかわらず、投資額が約11億円に収まっているのは、社内LAN用の自社通信網を活用したからだといい、「新たにケーブルを張ってネットワークを作るとなると、この額では収まらない」そうだ。センサーとデータ収集装置は「LPWA(Low Power Wide Area)」という省電力で遠距離通信が可能な通信方式で接続している。

 こうした検査業務の置き換えは、設備が多い都市部では早く効果が出やすい。そのため今中期経営計画では近畿エリアへの展開を予定しており、2030年に同地区の電気関係の検査業務を4割程度削減したいとしている。

 だが、設備の数は少ないものの駅間が長かったり、山間部など人が容易に立ち入れない箇所にあるなど、作業効率の悪いローカル線においても、その効果は小さいものではない。JR西日本は将来的にはこのシステムを全線に展開し、都市部、ローカル線ともに経営の効率化を図っていく考えだ。

 IoTインフラネットワークの導入は、従来の検査業務をそのまま機械に置き換えるにとどまらない効果がある。センサーで常時、設備の状態監視ができるようになるということは、検査のあり方そのものが変わっていくのである。

 前述のように3カ月や6カ月など、一定の時期が来たら検査や部品交換を行う検査をTBM(Time Based Maintenance)という。これは高月課長に言わせれば「必ずしも一番効率のいいやり方ではなかったが、その方法しかなかった」から用いられてきた手法だ。

 ところがIoT技術の発展により常時データを取得できるようになれば、その解析によって、より適切な検査周期や交換周期に改められる。また設備状態の把握頻度が増加するため、故障の予防や早期把握も可能になる。これをTBMに対してCBM(Condition Based Maintenance)という。CBMは省力化、コスト削減、そして安全性の向上につながることから、鉄道経営を一変させる可能性を秘めている。

旅客サービスに
活用することも可能

 今回導入するIoTインフラネットワークは、まずはTBMの中で、人の手で行っていた検査をセンサーに置き換えることから始まるが、同時に将来的なCBM導入の第一歩としても位置付けられている。ただ、IoTインフラネットワークの導入が即、CBMに結び付くというほど簡単な話ではないようだ。

 高月課長は「従来の検査業務を置き換えるだけならデータは3カ月に1回取ればいい。しかし、CBMで使うとなると気温や気象条件などのデータとともに、1秒に1回、あるいは1秒に10回など莫大なデータを取得しなければならない」として「今のシステムは検査の置き換えを目的に設計したものなので、CBMで使うためにはシステムを改修しなければならない可能性もある」と語る。

 またCBMを行うためには、センサーで取得した良質で大規模なデータから、高精度な分析モデルを開発しなければならない。現在、センサーの設置と併せて、社内のデータ分析チームなどが効果を個々に検証し、具体的な実装を進めているところだという。

 もうひとつ、JR西日本のIoTインフラネットワークのユニークな点は、検査業務のためだけに使用するのではなく、開かれたシステムであるということだ。線路の付近にセンサーさえあれば、どんなデータでも取り込める。取得したデータは同社の社員であれば社内ネットワークから誰でも見られるようにすることで、誰でも簡単にデータ収集ができるようにする。

 つまり、駅にセンサーを付けて、トイレやごみ箱の利用状況など、旅客サービスに活用することも可能になるという。これまでは新規にセンサーを設置する場合、通信使用料などランニングコストがネックになったが、IoTインフラネットワークを使うことで、こうした問題を解決することができる。

 IoTは鉄道を変えるか、JR西日本の取り組みは始まったばかりだ。