先月初め、国立がん研究センターから、母親の子宮頸がんが分娩時に出生児に移行した症例の報告があった。
肺がんと診断された1歳11カ月と6歳の男児について、がんのオーダーメイド診療を可能にするがんゲノムプロファイリング用の「NCCオンコパネル」検査を行った結果、偶然、本人とは異なる遺伝子配列が見つかったのだ。
母親がいずれも子宮頸がんと診断されていたため母親のゲノムと比較したところ、男児2人のがん細胞は男性性を決めるY染色体を欠き、母親と遺伝子変異が一致していたほか、子宮頸がんウイルス(HPV:ヒトパピローマウイルス)が見つかった。つまり、母親から子どもに子宮頸がんの細胞が移行したことになる。
がんに罹患し、なおかつ妊娠している母胎から胎児にがんが移行する可能性は極めて低い。胎盤や胎児自身の免疫反応に守られているからだ。
たとえば、出生児1000人当たりで母親ががんに罹患している確率は1人。そして、担がん患者の母親から児にがんが移行する確率は、50万人分の1人と推計される。万が一、がんが移行した場合は胎盤を介して、つまり血流に乗ってがん細胞が子どもに運ばれるため、皮膚や脳、骨など複数の臓器に発症することが多い。
しかし、今回見つかった2症例はいずれも気管支から肺にがんが局在していた。男児は2人とも膣経由の普通分娩だったことから、研究者は「出産時に子宮頸がん細胞が混じった羊水を誤嚥し、がんが移行した可能性」を指摘。「母親が子宮頸がんの場合、普通分娩ではなく、帝王切開が推奨される」と警鐘を鳴らしている。
診断後、子どもたちはシビアな抗がん治療を受けざるを得ず、母親2人は子宮頸がんの治療のかいなく、後日亡くなっている。
子宮頸がんはHPVワクチンで発症を予防できるがんだ。日本では2価と4価および9価があり、4価は男性も接種できる。
子宮頸がんは女性個人だけの問題ではない。男女とも若いうちにリスクを回避する賢明な行動をとってほしい。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)