人と組織の発達段階で変わる「響く言葉」

加藤:うまいですね。チームに共通認識を持たせたところがポイントだったと思います。一人ひとりが個として成立したあとは、集団として力を発揮していく発達段階に向かうので、「チームで戦う」というメッセージを打ちだしたのは効果的でした。

中竹:スタッフやコーチのほかに、選手のトレーニングも2年前から始めたんですが、選手も拒否反応を示しました。そこで私の立場を明確にして、「私はみなさんに野球を教えられないけれども、みなさんの文化を変えたい。学習する組織や学ぶ組織にしたい」と伝えました。

 本音が言えなくて偽善者と思われるのが嫌で心理的な葛藤のあるチームだったので、先手を打って「私はきれいごと言い続けます」と宣言したんです。たとえば「感動」「ファミリー」「絆」「感謝」など、本来ならば誰しも持ちたい感情なのに、発達段階の低いとそれが攻撃されたり、バカにされたりしてしまいます。

 しかし、組織文化が醸成されていくと、きれいごとが当たり前になり、心からありがとうと伝えられて、恥じらいなく「友情」や「愛情」という言葉が使えるようになります。

 そうしたら毎日が楽しいはずです。結果や成果を出した人が幸せなのではなく、幸せな人が成果を出せるんです。「私はきれいごと言い続けますから、みなさんも恥ずかしいかもしれないけど、そんなチームになりましょう」と伝えました。

加藤:いまのポイントは、発達段階ごとに響く言葉が違うという点です。発達段階ごとに成長を促してくれる言葉があって、保守的かつ利己的な段階にあるベイスターズがさらに成長するには、一体感をもたらしてくれる言葉が大事になります。「絆」や「家族」などは、一つのチームをつくるときに大事なキーワードです。それを伝えたのはすばらしいですね。

中竹:発達段階でそれぞれどういう言葉が響くのですか。それそれの段階に合わせて教えてください。

加藤:アンバー(神話的段階・他者依存的段階)は他者や所属集団を重んじる行動特性があるので、「他者のために」「チームのために」のような言葉が響きます。

 オレンジ(合理的段階)の段階にいる人は成長欲求が強いので、たとえば「自己実現」や「自己成長」といった言葉が響くでしょう。

 グリーン(多元的段階)は相対主義的段階とも呼ばれていて、この段階にいる人たちには「ダイバーシティを尊重しよう」「人はそれぞれ価値を持っている」といった言葉が刺さる傾向にあります。

 ティール(統合的段階)にいる人たちは、人や組織の成長に関して深い洞察を獲得し、思考の時間軸も延びるため、たとえば「相互発達的な自他成長」や「子々孫々の社会に貢献する持続可能な事業やサービスの実現」といった言葉が響くと思います。

 自分たちの組織文化や発達段階を知り、組織のメンバーにどのような言葉が響くのかを意識して言葉を使うのは重要です。

 ベイスターズのケースで言えば、彼らの組織文化やメンバーの発達段階を無視した目的を掲げても、まったく響きません。それによって組織文化の変革が進まなかったかもしれません。無意識かもしれませんが、中竹さんが「絆」や「ファミリー」という言葉を使ったのはすばらしかったと思います。