『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』ではチームや企業の組織文化の変革方法について、まとめています。本書の取材で著者の中竹竜二さんがアドバイスをもらいに行ったのが、ほぼ日を経営する糸井重里さんでした。インタビューの前編で糸井さんはほぼ日のモノの決め方について教えてくれました(詳細は「糸井重里さん「ほぼ日の判断基準は平安時代の人でもよろこぶか」」)。中編となる今回は2020年11月、移転した神田の新オフィスに、ロッカールームを用意した狙いについて。会社には「親しさ」が必要だと話してくれました。(構成/新田匡央)

中竹竜二さんと糸井重里さん(Photo:竹井俊晴)

中竹竜二さん(以下、中竹):インタビューの前編で糸井さんは、ほぼ日で何かを決めるときのキーワードについて教えてくれました(詳細は「糸井重里さん「ほぼ日の判断基準は平安時代の人でもよろこぶか」」)。これがほぼ日の組織文化の根底にあるんだと、あらためて納得できました。

糸井重里さん(以下、糸井):いちばんいいのは、「ああいうふうに仕事をするのは格好いいな」と思うことがあることなんです。その格好いいほうに自分も行きたいと思うと、企業風土みたいなものができてくるんです。

 2020年11月、ほぼ日の本社とほぼ日の学校は、青山から神田に移りました。コロナになってから、オフィスの机をなくす流れが加速していますよね。でも、机をなくしただけでは、自分がどこかに所属している感じが失われていくと思うんです。

 そこで、新しいオフィスではロッカールームをつくりました。1フロアをすべてロッカーにして、まずはロッカーに出勤する。そこから仕事をする場所に移動するようにしたんです。まるでスポーツ選手ですよ。

中竹:スポーツジムみたいでいいですね。

糸井:それも小さいロッカーではなくて、レインコートを掛けられるくらいの高さのある大きさにして、自分の持ち物はすべてロッカーに置いておけるんです。カギも掛けられるので、机に資料をしまっておくよりは、よっぽど規律正しくできます。ラグビーでも、試合前やハーフタイムの時間はロッカーに戻ってきますよね。あの時間が、いちばんチームがチームらしいと思うんです。

中竹:ロッカールームで、本当のチームの姿が出ますよね。

糸井:ロッカールームをつくったのは、たぶんラグビーを見たからだと思います。だって、ハーフタイムでロッカールームに戻ると、選手たちが生まれ変わって出てくるじゃないですか。それは、サッカーも野球もそうですよね。

 ロッカールームをつくると、オフィスの1フロアが使われるので、コストはかかります。それでも、所属意識のようなものは、どこか生身の体に触れるものとして、持っていたいんです。

中竹:人間の根本的な欲求でしょうね。

糸井:リモート勤務を賛美するのは、仕事を分けて持って帰れるタイプの人だと思います。

 もちろん、リモート勤務を否定もしません。ただ、会社の中でも「親しさ」は重要なキーワードだと思います。会社の中にいても、あのころからあいつと親しくなった、みたいなことがありますよね。インターン同士や同期はみんな親しいですし。親しさというのは、相手を信じている、ということかもしれません。

 相手の欠点も、「しょうがないな」というところまで含んで認めている。それなのにいま、会社を考えるときに「親しさ」は不要だと思われているような気がします。

 「仲良しクラブじゃないんだから」と言ったりしますよね。でも、「仲良しクラブ」は強いですよ。

中竹:本当にそう思います。キャッキャしながら仕事しているところが、パフォーマンスが高いと言われますよね。

糸井:仲良しクラブでキャッキャしながら成果を上げられるような、親しさと成果を両立できるジャンルがあると思うんです。そして第3次産業以後の産業は、それが両立できると思うんです。

 たとえば、お菓子屋さん同士って仲がいいんです。(北海道の老舗菓子店の)六花亭さんは、跡取り息子を(老舗和菓子の)虎屋さんに修業に出していました。

中竹:ライバルじゃないんですか。

糸井:仲がいいんです。理由は簡単ですよ。あるお菓子を食べるからといって、別のお菓子を食べないということがないからです。

Photo:竹井俊晴

中竹:最近は信頼という概念の研究もはじまっていて、実はホルモンが作用しているらしいんです。信頼と信用は違うと言われていますよね。「信用」は実績など、過去の成果や結果を前提に人とつながることで、「信頼」は感情的な部分、人としてどうかというところを土台に、過去の実績などは関係なく信じること。

糸井:赤ん坊が眠くなってお母さんの胸に行くのは信頼の原形ですよね。

中竹:だから親しさは信頼と結びついていく。他者に対して、純粋に思いやりを持って、困ったら助けたいと思える関係を築けるかどうかが、組織の文化を構築するときにもたいせつだと思っています。ただ論理的に考えると、自分がたいへんなときに他人を助けると、自分が損をすることもあるかもしれない。その結果、人を助けることでどれだけ自分が損をするのかを計算するような組織と、純粋に困っている人に寄り添える組織にわかれていくのかもしれませんね。

糸井:そのバランスが人の個性だと思うんです。会社も同じように、どちらかが濃い人が混じっていると思うんです。

 ぼくらが気をつけなければならないのは、人情がない人を責めてはいけないということです。きっと誰かが、いいバランスで周りに影響力を及ぼしてくれている。そこは、受け入れる側が大人でいなければいけないのでしょうね。

(対談後編は2021年3月5日公開予定です)