『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』ではチームや企業の組織文化の変革方法について、まとめています。本書の取材で著者の中竹竜二さんがアドバイスをもらいに行ったのが、ほぼ日を経営する糸井重里さんでした。「ほぼ日の組織文化はどうやって培われてきたのか」について糸井さんに取材しました。今回はそのインタビューの前編。糸井さんはほぼ日が現在のようなカルチャーになったのは「自分の体に聞いてみたからだ」と語ります。(構成/新田匡央)

中竹竜二さんと糸井重里さん(撮影:竹井俊晴)

中竹竜二さん(以下、中竹):『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』という本を執筆しています(取材は2020年夏に実施)。文化とは、英語で言うと「cultivate」。「耕す」という意味です。組織文化とは、外部からパワフルなリーダーが来て、何らかのツールを活用して劇的に変わるようなものではなく、少しずつ、長い年月をかけて耕していくものだと考えています。

 そういう意味では、糸井さんの経営するほぼ日はまさに「cultivate」しているように感じました。ほぼ日のカルチャーは、誰もがまねしたいと思っても、まねのできない境地に至っています。そんな組織文化をつくり上げた糸井さんに、組織文化についてお聞きしたいと思います。

糸井重里さん(以下、糸井):組織で仕事をするのは、時間をどれだけ会社に捧げているかが基準になります。そして、捧げた時間が価値あるものだと認定されると、給料が上がります。

 でも、本当はそれだけでは、うまく整合性が取れませんよね。

 フリーランス時代、ぼくは無償の仕事を請け負ってきました。時間を使うことに対してお金を発生させないのは、まさに「知の蕩尽(とうじん)」です。でも、それがおもしろかったんです。

 価値があるとされることにお金をたくさん払ってもらうと、無償のことをする余裕が出てきます。ぼくは自分の原稿を自分でオートバイに乗って運ぶコピーライターだったんですが、大御所の人たちはぼくのことを、「ダンピング糸井」と揶揄(やゆ)したんです。そういうことをされると困る、と。

 でも、そうやって仕事を増やしていくと、中にはお金をたくさん払ってくれる仕事が混ざってきます。

中竹:結果として、余裕が出てくるんですね。

糸井:そう。すでにそのときから、ぼくはポートフォリオ型の収入だったんです。

 会社を始めてからも、「これはどうなんだろう?」と思うような仕事を山ほどしてきました。厳密にコストの計算をすれば軽く赤字だったりするんです。でも、何のために仕事をするのかと考えたら、売り上げや利益を上げることとは限りません。人がよろこんでくれて、人が集まってくれるのが、ぼくらが仕事をしている意味なんです。だから、引き受ける。

中竹:なるほど。

糸井:これを資本主義的に言えば「ブランド価値を高める」という説明になってしまいます。

 でも、それはちょっと違う。だって、「ブランド価値を高める」と言ってしまうと、ブランド価値を高めないような仕事ができなくなってしまうから。

 ブランド価値を高めなくても、やるべき大切な仕事はあります。そんな場合は、ふたつを混ぜるとやっていけるんです。おかげで「これはちょっと高いけど、あそこの会社は好きだから、わたしはこれを買うわ」と言ってくれるお客さんがいて、きちんと利益を上げる仕事にも恵まれてきました。

 コロナになってわかったのは、イベントを中止してもあまり痛手にならなかったということです。もともと稼ぐ仕事と稼がない仕事を混ぜていて、全体で見るとあまり稼いでいなかったんです(笑)。うすうす勘づいていたけれど、今までやってきた考え方が間違いじゃなかったことがはっきりとわかりました。

そういう意味でも、ほぼ日のカルチャーが今のようになった理由は、「自分の体に聞いてみた」からだと思うんです。

中竹:素直に聞いてみたということですね。