東日本大震災時の福島第一原発事故を描いた映画『Fukushima50』が今年1月、第44回日本アカデミー賞において最多12部門で優秀賞を受賞した。震災から10年、いまも風評被害に苦しむ福島の復興に必要なことは何か。映画の原作となった『死の淵を見た男――吉田昌郎と福島第一原発』(角川文庫)の著者である門田隆将氏が緊急寄稿した。
東日本大震災による
津波は予見できたのか
あの日からもう10年――。
愛する家族を失った人は、あまりの時間の速さに信じがたい思いがこみ上げているだろう。時間が止まったまま、生涯、その時計が動き出すことのない人もいる。
さまざまな思いをのみ込んだ2011年3月11日を私自身も忘れられない。福島第一原発事故の取材などで走りまわった日々が脳裡に蘇ってくる。今回はその中で、私がかねて「司法」と「マスコミ」に対して考えていることを書かせていただきたい。
それは「事実」を踏まえず、「感情」によって「常識」というものをブルドーザーで破壊していくような現在の風潮を考える際に役立つと思うからだ。
この10年、いかに日本で、あの未曽有の大津波について子どもじみた、事実に基づかない話がまかり通っていたかを考えてみたい。
ひとつの例として「あの津波は予見できたのか」という議論を見てみよう。