また、スマート家電の進化は、家電の新たな価値の次元をつくろうとしている。これまで家電の価値は、製品の機能・性能が優れているか、価格が安いか、あるいはデザインや使い勝手が良いかによって評価されてきた。しかし、携帯電話の基地局やスマートフォンで、ファーウエイ製品に対してプライバシーや安全保障上の懸念が示されるようになると、通信機器の安全性がにわかにクローズアップされてきた。
スマート家電は全てがインターネットに接続され、多くの製品の場合、メーカーのサーバーで使用環境が把握され、通信回線を通じて家電のモニターや操作が行われている。つまり、スマート家電を導入するということは、家庭内のプライベートな空間の情報をメーカーのサーバーに預けるということに他ならない。
そうなれば、その家電が使いやすいか、機能性があるかとは別に、自分のプライバシーを預けるだけの信頼がある企業かどうか、という点が重要になってくる。
「安心」「信頼」こそが
市場で生き残るための価値となる
企業に対する安心感や信頼感も、製品の価値を構成する要素である。長年、自由主義経済圏で実績のある日本ブランドの価値を示すことができる、格好の状況とも言える。欧州の携帯電話基地局整備は、一時は費用対効果の高さから中国製機器の導入が検討されてきたが、多くの国で安心、信頼の観点から見直しがかかり、NECや富士通など信頼性という価値が評価されたメーカーに、出番が回ってきている。
しかし、いくら携帯電話のセキュリティだけを高めても、家中のスマート家電が抜け穴になっていれば意味がない。これからのスマート家電は、便利なだけでなく、安心で信頼のある製品でなければならないし、そういうムーブメントを日本メーカーが積極的に欧米市場でつくっていくことも、新たな戦略の1つとなるだろう。
(早稲田大学大学院経営管理研究科教授 長内 厚)