上流と下流だけが儲かる
「スマイルカーブ」とは何か

 国内経済の人口減少による成熟化、そしてアジアの成長による引力(gravity:連載第11回参照)の増大。これが日本経済の長期的なトレンドを決める重要な要因である。

 本連載はこれまで、アジアの拡大による日本経済の産業構造の変化について述べてきた。今後は、国内の少子高齢化の影響について考察することを予定している。

 今回は、こうした二つの要因の影響を、単純ではあるが示唆の多い形で整理した考え方「スマイルカーブ」について紹介したい。大きな変化にさらされている企業の環境を理解する上で、役に立つ見方だと思う。

 スマイルカーブとは、笑ったときの人間の唇の形をイメージしたものである。要するに両端が上がった形をした曲線だ。鍋やフライパンの底というイメージでもよい。この曲線が意味することは、産業構造のなかで、上流のビジネスと、下流のビジネスは利益率が高くなるが、中流は利益率が低くなるというものである。

 スマイルカーブという言い方を最初にしたのは、台湾の大手パソコンメーカーであるエイサーの創業者スタン・シーだと言われる。もう10年以上前のことだとは思うが、現在でもパソコンの世界ではスマイルカーブが顕著に出ているようだ。

 上流にあるインテルやマイクロソフトのような企業は高い利益を上げている。グローバル化が進みマーケットの規模が大きくなるほど、上流で他社の追従を許さないような特徴のある製品を提供できる企業は、高い利益を上げることができる。

 中流で、パソコンを組み立てたり、それを販売したりするだけのビジネスは利益が少ない。中国のようなところで大量の労働力を投入してパソコンが生産されている状況では、中流が儲からないことは明らかだ。