組織の断絶を乗り越えて成果を生み出す
対話の価値
組織の中の断絶から生じる問題に対応するためにも、もっと対話をしてほしい。
『他者と働く』でも、そういったメッセージを発してきたのは事実です。
ただし、「何のために対話をするのか」という部分に関しては違和感を覚えることが結構あります。
──それはどんな違和感ですか?
宇田川:「もっと対話をしましょう」と言うと、
「みんながイキイキ働くため」
「働きがいを感じられるように」
というニュアンスで捉えられることが結構あるのです。
でも、もっと対話というのは、変革的で、成果につながるものとしての側面もあるのではないでしょうか。
企業とは成果を出すことを通じて社会に貢献するための制度です。
だから、事業をしっかり確立していくことが大切ですよね。事業を通じて社会に貢献できる。
その部分が前提になければ、いくら「対話をしましょう」と言っても、なかなか理解を得られないでしょう。
成果を見据えていない対話の実践は、対話の価値を限定してしまっていると思います。
以前、こんなことがありました。
ある組織開発をやっているという方に、「最近、御社の製品に魅力を感じなくなってきているんですが、どう思いますか?」と聞いてみたことがありました。
すると、その人は「それは私の仕事じゃありません」と答えたのです。
もしかすると、その人は、自分には製品をよくすることに貢献する余地はないと感じていたのかもしれません。
でも、対話にはそういう課題に向き合う大きな力があると私は思うのです。日本の企業社会は、先に述べたような長らく続いた変化の中で断絶が大きくなっています。その断絶の中で生じる組織の慢性疾患を乗り越えて、変革していく力が対話にはあると思います。
──対話には、一般的なイメージの職場の雰囲気をよくしようという以上に、もっと変革的な意味合いもあるのですね。
宇田川:そうですね。もちろん、対話で社内の雰囲気がよくなったら、それはそれでいいとは思います。
でも、たとえば、負け続けているJ1のサッカーチームがあって、このままではJ2に降格してしまうようなとき、「雰囲気がよくなるために、どうするか」だけではまずいのではないでしょうか。なによりもまず勝つことが大事ですよね。勝てば雰囲気がよくなることも結果的にはあります。
「どうしたら勝てるか」ということを考えていくうえでも、対話は有用だと思うのです。