厳しい現実の中で
変革を成し遂げる対話の力

 前著『他者と働く』でも、神学者であるマルティン・ブーバー(1878~1965)に触れましたが、対話というか、ナラティブ(narrative、生きている物語)に関わる世界的に知られている思想家や研究者はユダヤ系が多い。

 ブーバーはもちろん、クロード・レヴィ=ストロース(1908~2009)、ジェローム・ブルーナー(1915~2016)、ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン(1889~1951)、ノーバート・ウィーナー(1894~1964)など。ピーター・F・ドラッカー(1909~2005)もそうですよね。

 彼らの思想に通底していると思うのは、人間は自分が見えているものはとても限られているということです。だから、人生で直面する様々な苦難は、痛みを伴いながらも、見えていなかったものが見えた瞬間なんです。

 これは、ユダヤ民族の国を追われた長い苦難の歴史を生き延びるための知恵だったように感じます。

 苦難にどう向き合い、意味を発見して歩んでいくか。

 苦難にあっても、ギリギリの中でも生き残る、ということ。想定外の厳しい環境でも、一歩でもよりよい現実を少しでもつくっていく。そういうものなのです。

 私は、そういった徹底した変革へのリアリティが、そもそも対話という概念にはあるのではないでしょうか。

 組織には対話が必要で、もっと対話をしてほしいと、今回の『組織が変わる』でも訴えているのですが、それは組織の雰囲気がよくなるとか、働きがいを感じられるといっただけに限定されるものではありません。そこで止まってしまっては成果につながらず、生き延びられないかもしれません。

 結果として、雰囲気がよくなるのはよいことです。でも、それだけに対話の力を限定してしまってはもったいないと思うのです。

 前著ではそういった現実的なところが足りなかったかもしれないという認識のもとに、新著『組織が変わる』では、もっと変革的な対話の力を感じてもらいたいと思って書きました。

【「だから、この本。」大好評連載】

<第1回> あなたの会社を蝕む6つの「慢性疾患」と「依存症」の知られざる関係
<第2回>【チームの雰囲気をもっと悪くするには?】という“反転の問い”がチームの雰囲気をよくする理由
<第3回> イキイキ・やりがいの対話から変革とイノベーションの対話へ!シビアな時代に生き残る「対話」の力とは?
<第4回> 小さな事件を重大事故にしないできるリーダーの新しい習慣【2 on 2】の対話法

<第5回> 三流リーダーは組織【を】変える、一流リーダーは組織【が】変わる

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