中国海警法は尖閣周辺だけでなく、グローバルに中国の広範囲な海上における役割を強化するための法体系だ。

森本元防衛相森本敏(もりもと・さとし)/防衛大学校卒後、航空自衛隊に入隊。外務省に出向後、1979年外務省に入省。在米日本大使館、在ナイジェリア日本大使館、安全保障政策室長などを経て、92年退官。野村総合研究所主席研究員を経て、2000年に拓殖大学教授、16年から21年まで総長。12年には民主党野田政権で民間人初の防衛相。その後、安倍政権でも防衛相政策参与を務めた。著書に「新たなミサイル軍拡競争と日本の防衛」「国家の危機管理」「防衛装備庁」など。1941年生まれ。 Photo by T.U.

 中国は1月に国防法を改正して宇宙やサイバーを含め、重大な安全保障にかかわる領域の活動について、安全を守るために必要な措置を取る体制を作ったが、同時期に海警法の改正も行われた。

 海警局は2018年から中央軍事委員会の傘下にある武警の指揮を受けることになっているが、二つの改正がセットで行われたことに注目する必要がある。一連のことは周到に準備されてきたものだと思われる。

 狙いは、一言で言えば、第一列島線の内側を圧倒優位な状態にして、いわゆる領域阻止を確保し日米を中国本土に接近させないようにすることだ。

 それは自らの国益を守るためだ。具体的には台湾攻略の条件を作ること、平時には中国の海洋輸送路や海洋の資源を守る、そして、長期的には海洋資源の確保ということがある。

 資源確保は、尖閣の領有権を主張した1971年当時は石油が念頭にあったようだが、現在は海底にある重金属資源ではないかと思う。中国は沖ノ鳥島周辺にまで調査船を出しきているが、いずれはこの海域の大陸棚まで領有権を主張するのではないか。

 軍事的には中国本土に日米の防衛力を接近させないようにすることで、海南島という一番重要な戦略基地や、中国の内陸部に配備している中長距離ミサイル・航空基地を、第一列島線付近に配備された米軍のミサイルや空母艦載機・海軍艦艇から飛んでくる対地ミサイルから守る狙いだ。

尖閣は台湾侵攻の戦略手段の一つ
口実を与えないようにすることが重要

 つまり、中国のミサイルは届くが、米国のミサイルは届かないようにして、有事の際にも近海に米艦船が入り込めないように第一列島線のなかを圧倒的優位な状況にしておくことを狙っている。

 冷戦時代に、ソ連が原潜を配備してオホーツク海を聖域化していたようなことを考えているのだと思う。

 日本が留意しなければいけないのは、尖閣問題は尖閣だけではなくもっと広い観点から、とらえて対応をしないといけないということだ。