現行法でかなり対応できる
「領域警備法」は効果が疑問

――法的な問題はともかく、海警の船が尖閣諸島周辺で日本の漁船や巡視船と接近し何らかの事態になった時に対応はうまくできるのでしょうか。

 自民党の国防部会や政府内でも随分と時間をかけて、あらゆるケーススタディーを行って検討した。現行法の枠組みで、相手が撃ってきたりした時には危害射撃を含めて相当な対応ができるという判断だ。

 いまは海保の巡視船が、侵入してくる海警船との間に入って日本の漁船の安全を守る措置を取っている。仮に海警が巡視船に撃ってきたら、警職法第7条を準用して要件を満たす場合には、警察比例の原則に基づき武器使用ができる。使用の要件と原則は極めて厳しいとはいえ、相手の対応によっては危害射撃もできる。

 海上保安庁で対応が難しく、自衛隊が治安の維持のために特別な必要がある場合には、自衛隊が海上警備行動を行うことになっている。さらに事態が進み、一般の警察力では治安を維持することができないと認められる場合には、治安出動を行う。

 ここまでは法執行行為だが、さらに危険な事態になって平和安保法制で示されている武力攻撃事態になると、防衛出動ということになる。

 このように日本の法執行活動や防衛活動は事態の変化に応じて法体系が決まっていて、対応や手続きもその都度、異なる。自民党内には、どの事態なのか判断が難しい「グレーゾーン事態」にでも迅速に対応できるようにするには、「領域警備法」として一つの法体系にすべきだ、という声があることは確かだ。

 だが、単一の法体系で内閣や海保、警察、自衛隊を実際に動かすとなると、指揮系統や権限を一本化する必要がある。しかも、日米共同で行うということになると、統一運用は簡単ではない。

 行政組織にはそれぞれに歴史や経緯、システムの特徴がある。単一の法体系を作ればできるというものではない。

海保と自衛隊の連携重要だが、
中国海軍介入の口実になるリスク

――海上保安庁の体制や自衛隊との連携に課題はありませんか。

 海上保安庁25条は、「軍隊として組織され、訓練され、又は、軍隊の機能を営むこと」を認めないとしている。この25条を削除すべきだという声も一部にはある。

 だが、これには歴史的経緯があり海保の存立にかかわる問題だから、これも簡単にはいかない話だ。

 まずは海保が、尖閣周辺で起こり得るさまざまな状況をシミュレーションして、より効果的に対応できるように訓練し、備えをすることが重要だ。

 巡視船の大型化や装備を重くする必要もあるし、要員も足らない。

 中国海警の船は大型艦が多くて1000トン以上の船が130隻以上だが、海保はせいぜい六十数隻だ。今年、新造艦は作っているが、それでも70隻にはなっていないから体制の強化は必要だ。