お客様が不愉快だと感じることが起きていたなら、
その上位のマネジメントのあり方が問題
株式会社RE-Engineering Partners代表/経営コンサルタント
早稲田大学大学院理工学研究科修了。神戸大学非常勤講師。豊田自動織機製作所より企業派遣で米国コロンビア大学大学院コンピューターサイエンス科にて修士号取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。マッキンゼー退職後は、企業側の依頼にもとづき、大手企業の代表取締役、役員、事業・営業責任者として売上V字回復、収益性強化などの企業改革を行う。これまで経営改革に携わったおもな企業に、アオキインターナショナル(現AOKI HD)、ロック・フィールド、日本コカ・コーラ、三城(現三城HD)、ワールド、卑弥呼などがある。2008年8月にRE-Engineering Partnersを設立。成長軌道入れのための企業変革を外部スタッフ、役員として請け負う。戦略構築だけにとどまらず、企業が永続的に発展するための社内の習慣づけ、文化づくりを行い、事業の着実な成長軌道入れまでを行えるのが強み。著書に、『戦略参謀』『経営参謀』『戦略参謀の仕事』(以上、ダイヤモンド社)、『PDCA プロフェッショナル』(東洋経済新報社)、『PDCAマネジメント』(日経文庫)がある。
私の友人が、かつて80年代にニューヨークに留学し、マンハッタンにあった東京銀行のニューヨーク支店に口座開設に行った時のことです。閉店時間の15時の5分前に店に到着し、中に入ろうとすると、入り口に座っていたセキュリティの男性に止められました。
「今日はもう閉店だからダメだ」
「まだ、閉店の5分前だろ?」
「いや、お前が受付の列にならんで、受付の前に立つ時には15時を過ぎる。帰れ」
これが当たり前だったのが、当時の米国です。
上からの指示、「業務命令」のみが絶対で、それ以外のことは行っても何の評価も、すなわち、昇給にも昇格にもつながりません。
自身の仕事の使命を考える必要も責任もなく、金をもらって指示された仕事をすればいいというのが、当時の米国の労働者の実態だったのです。
彼らが悪いというよりも、現場をそのように扱うマネジメントが、当時の企業では一般的でした。おそらく人体を模した指揮系統のモデルよろしく、上から言われたことだけをやれば良しという、現在の視点で考えれば、「お粗末」としか言えないマネジメントが普通に行われていたのです。
当時の米国では「本部が考え、現場がやる」という、一見、スキーム上は理にかなっているように見えるものの、よく考えると市場起点のPDCAが廻りにくい、上意下達(じょういかたつ)の一方通行型の組織運営が常識でした。
しかし「本部で決めた業務命令の完全徹底が現場の使命である」という当時の常識に沿ってしまうと、上記の銀行の例のように、その業務指示の精度が低い場合には、顧客に失礼なケースが起き、本部側が気付くまで、その状態が継続することになります。
こういった背景のもとに、「これではいけない」と始まったのがCS運動です。
たとえばマクドナルドでは、わざわざメニューに「笑顔0円」と、実は従業員を意識して表示することまで行わなければならなかったのです。
当時の日本では、「CSと言えばノードストロム」というように紹介されていました。これはそもそも、当時の米国のようなお粗末な顧客対応は、日本ではあまりお目にかかることがなかったため、CSを「一段階上の満足を目指しましょう」という打ち出しにしたほうが、リアリティを持って受け入れられると考えられたからでしょう。
お客様にご満足いただくために、知恵を絞ることは大切です。
しかし、最優先に行わなければならないのは、お客様に理不尽な不愉快を感じさせないことです。
もしお客様が不愉快だと感じることが起きていたなら、それは担当者個人の責任にするのではなく、その上位のマネジメントのあり方が問題であると考え、制度やマネジメントの振る舞いをどう変えるべきかを考えなければなりません。
先日、知人から聞いた話ですが、日本に滞在していたドイツ人が、日本のどの店に行っても、皆、笑顔で親身な接客をしてくれたことに大変、驚き、彼にこう聞いたそうです。
「あの態度、本気じゃないよね?」
相手のための親身な接客を行うのは「和を以て貴し」とする我々日本人にとっては当たり前でも、日本から一歩出れば、インセンティブとなる報酬と教育体系がなければ、その実現は難しいものです。この強みを十分にアセット(財産)として、活用できる現場を実現しましょう。
《Point》
すべてのビジネスは、顧客のための問題解決業。マイナス要素をゼロにすることが先決。