日本の「仮想敵国」はどこか

寺田:ところで、僕が出口さんと初めてお会いした2016年10月2日、ライフネット生命本社で言われたことが忘れられません。

寺田さん、哲学は単体で見ていくより、宗教と一緒に見ていったほうが面白い。さらに世界史を背骨に哲学と宗教を見ていくと、もっと面白いんです

その瞬間、「それは面白そうですね!」とおもいっきり身を乗り出した記憶があります。

出口:時代背景を無視して「この人がこんなことを考えた」だけ書いてしまうと、その人の生命力がなくなる気がします。みんな、その時代の中に生きているのですから。

寺田:そうか、生命力を殺してきたのが、今までの教科書で学んできた世界史なのですね。

出口:僕は「この時期に世界はどうなっていて、この人はいつ生まれ、何を考え、何をしてきたのだろうか」と考えるのが楽しいです。

それにはやはり俯瞰的・総合的に歴史を見なければ、わからないところがたくさんあるような気がします。

寺田:おっしゃるとおりですね。

出口:これは僕が京都大学時代に、国際政治学者で師匠である高坂正堯先生(こうさか・まさたか、1934-1996)に教えていただいた影響が大きいと思います。

当時、高坂先生は僕らに「日本の仮想敵国はどこか?」と問われたのです。

時は1967年。米ソ冷戦の真っ最中ですから、僕の友達が「ソ連より中国のほうが怖い」と言うと、高坂先生が苦笑いし、「今年のこのクラスはみんなアホやな。そもそも仮想敵国とは何か、定義してみなさい」と言われた。

「『敵』は、同じものをつくり、同じマーケットで売っているヤツだ。とすれば、ソ連や中国は日本とかぶっていない。自動車や鉄鋼をつくって競争しているアメリカが日本の仮想敵国や。君らはそんなこともわからんのか」と。

日本は、仮想敵国と軍事同盟を結んでいる状況にある。それがリアリズムだということを教えていただいたことなど、高坂先生の話はとても印象深く残っています。

寺田:高坂先生の総合的・俯瞰的視点は今も非常に勉強になりますね。

百々:出口さんは歴史はもちろん森羅万象に精通し、それを活かす応用力で歴史を完全に自らの力にされている。僕らにとっての北極星です。

まさにコロナ禍の今こそ、「出口さんのものの見方、とらえ方」を理解し、歴史を生きる力に変えていただきたい。それがわかる唯一無二の本が、『哲学と宗教全史』だと思います。

(ps.出口学長より)過去の僕の『哲学と宗教全史』全連載は「連載バックナンバー」にありますので、ぜひご覧いただき、楽しんでいただけたらと思います。

ここ最近、妙に読まれている、人気記事

【出口治明学長】日本一賢い天皇と日本一賢い部下の最強コンビが救った日本の窮地
【出口治明】日本は鎖国ができて中国は鎖国ができなかった理由
【出口治明】なぜ、仏教は「538年」に伝来したのか?
【出口治明】日本の出生率を上げるたった1つの方法