まず面白い点は、価格戦略です。近所のスーパーではアサヒのスーパードライが184円(税込み、以下同じ)なのに対して、ビアリーは189円で販売されています。ライバルのキリン一番搾りやサッポロ黒ラベルは192円だったのですが、要するにビールと同じ価格帯で発売しているわけです。
一方で低価格帯のライバルであるサントリーの「ストロング」が108円、ノンアルコールビールのライバルであるサントリーの「オールフリー」が117円なのと比べるとビアリーの価格設定は対照的で、結構高いわけです。
「ストロング」や「オールフリー」が安いのには、酒税が大きく関係しています。原材料費だけでなく酒税が安い分だけ価格設定は安くできる。ところが面白いことに、税金の観点では酒税がかからないビアリーを、アサヒはあえてビールと同じ小売価格水準に設定している。ここが興味深い点なのです。
マーケティングのポジショニング論的に言えば、この価格設定が意味することは「ビアリーはビールと同じだけれども微アルコールな商品なんですよ」という主張です。味は似ているけど原料が違うから価格が安い新ジャンルや、雰囲気がそっくりなうえにアルコールゼロなので運転しても大丈夫なノンアルコールビールとは違う主張なのです。
実際、ビアリーは一度、ビールとして完成させたものを蒸留してアルコール濃度を低くする工程を経ているそうなので、その意味では品質も手間もビール以上にコストは高いのかもしれません。
しかしデフレ経済が市場に蔓延(まんえん)している2021年のわが国で、このようなチャレンジが成功するでしょうか? 簡単ではないと思いますが、私はこういったチャレンジは、起業家精神として大企業は常にやるべきだと思っています。
欧米には実際にローアルコール市場が存在しています。論理的にも私のように少しだけ酔いたい消費者層と、もうひとつ、「今はまだランチタイムだから」とか「今日は控えたいので」といった理由でその時々に微アルを選ぶ消費者層が、マーケティング調査的には存在するはずです。
ただ、この問題は簡単ではない。飲んでみてわかったことは、この商品はおいしいです。しかし、いつも新商品の開発を手助けするたびに思い出すのが、「消費者が求めているのは穴であって、ドリルではない」という格言です。
私が欲しいのは、別に微アルコール飲料でなくてもいいので、仲間と楽しく酔える製品が欲しいわけです。私の場合はビアリーでもやっぱり頭が痛くなった。この点は申し訳ないと思うのですが、消費者には個々人の事情があります。ただ、日本人の約3割にあたる微アルデヒド分解層なら消化できるかもしれない。そしてこういった層にこの商品がうまくさされば、この先の展開は面白い。
新しい市場の開拓には、一般的に長い時間と粘り強さが必要です。ビアリーの未来もおそらく、簡単な道ではないでしょう。しかし、アルコール市場に未開のマーケットがあることだけは間違いないのです。だから2021年にこの商品がたとえ売れても売れなくても、アサヒにはチャレンジを続けてほしいと私は思います。
(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)