パナソニックの呪縛Photo:Alex Wong/gettyimages

人員整理をタブー視してきたパナソニックが、バブル入社組を標的にした本気のリストラに着手する。早期退職プログラムの一つである「割増退職金」の上限は4000万円と大盤振る舞いだ。それほどまでに、成果の乏しいロートル社員の滞留が戦力人材の活躍を阻む状況を、社内では看過できないと問題視されていた。『パナソニックの呪縛』(全13回)の第2回では、50歳を標的にした年齢別加算金リストを公開するなど早期退職プログラムの中身を詳報する。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

ロートル排除は津賀社長の置き土産
楠見新体制の船出「前日」を退職日に設定

「コロナ禍でリモートワークになった社員が多い。情報共有の機会が著しく減っているので、同世代や先輩の世代がどれだけ早期退職に手を挙げることになるのか全く見当がつかない」(40代のパナソニック社員)。

 パナソニックが、バブル入社組を標的にした大規模リストラに着手することがダイヤモンド編集部の調べで分かった。

 具体的には、パナソニックは既存の早期退職制度を拡充させた「特別キャリアデザインプログラム」を期間限定で導入し、割増退職金を加算する。詳細は後述するが、割増退職金支給の上限額は4000万円に設定されており、破格の大盤振る舞いであるといえそうだ。

 また、希望する社員は転職活動に必要な「キャリア開発休暇」を取得したり、外部の人材サービス企業による「再就職支援」を受けられたりする。

 対象は、勤続10年以上かつ59歳10カ月以下の社員(管理職と組合員の双方)。ただし、組合員にはネクストステージパートナーと呼ばれる再雇用者(64歳10カ月以下)も含まれる。

 プログラムの申請期間は7月26日から8月20日まで。早期退職を検討する社員は、残すところ3カ月でキャリアの分かれ道となる重い決断を下さねばならない。

 実は、この早期退職プログラムが実行される「時期」は、ある重要な意味を持っている。パナソニックは、10月1日に持ち株会社体制への移行を踏まえた組織再編を実施し、6月末に社長に就任する楠見雄規氏率いる新体制が本格始動することになっている。そして、このプログラムに応募した社員の退職日が、新体制が船出する前日の「9月30日」に設けられているのだ。

 パナソニックでは、かねてロートル人材の滞留が変化対応力を削ぐ“元凶”であるとして問題視されてきた(特集『パナソニック 老衰危機』の#05『パナソニック「働かなくても年収1500万円超」幹部に迫る大リストラ【内部資料入手】』参照)。

 遅ればせながら、パナソニック経営陣は新体制がスタートする直前に聖域のリストラに踏み込んだといえるだろう。

 今回の早期退職制度の拡充は、津賀一宏社長ら上層部の意向を受けて、チーフ・ヒューマン・リソース・オフィサー(CHRO)の三島茂樹執行役員が実務を取り仕切っている。滞留する人材の新陳代謝を急ぐことで、新社長の船出をフレッシュな顔触れでスタートさせたいとする経営陣の強い意図が感じられる。津賀社長が残した最後の“置き土産”であるともいえそうだ。

 今回の早期退職制度の拡充について、パナソニックは建前では「人員削減を目的としたものではない」という姿勢を貫いている。だが、今回の制度がバブル入社組を標的にした「壮絶なリストラ」であることは火を見るよりも明らかだ。

 ダイヤモンド編集部では、パナソニック社員に配布された「割増退職金の年齢別加算金リスト」を入手。それによれば、50〜55歳を標的にした制度設計になっていることが分かった。