パナソニックの呪縛Photo:The Asahi Shimbun/gettyimages

10月に、パナソニックは持ち株会社体制への移行を踏まえた「組織大改編」を実施する。いよいよ、楠見雄規「新社長」が率いる新体制が本格スタートするのだ。組織改編のポイントは、持ち株会社にぶら下がる事業会社の自己責任経営だ。新体制では、家電や現場プロセスなどの主要4事業会社が主力とされる一方で、黒物家電など3事業会社は格下げされた。『パナソニックの呪縛』(全13回)の第1回では、新社長が描くグループ再編の最終形の姿を明らかにすると共に、幹部の人事配置と身売り事業を予想する。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)

「自動車でやりたいことがわからない」
パナソニックに対するホンダの評価

「ホンダさんの電気自動車(EV)ビジネスで何かお手伝いをできることはありませんか」

 4月23日、三部敏宏・ホンダ社長が2040年の新車販売を全てEVと燃料電池車(FCV)へ転換する“脱ガソリン車”宣言をした。その直後に、パナソニックから本田技術研究所(ホンダの研究開発部門)へ1本の電話が入った。

 パナソニックとホンダは、車載電池の取引などで歴史的に近しい関係にある。だが近年は、ギクシャクする場面もあったようだ。

 パナソニックの自動車事業(車載機器と車載電池)は、津賀一宏・パナソニック社長が登板した直後は基幹事業として位置付けられたが、その後の業績低迷で再挑戦事業へ格下げされてしまった。そうした事情から、自動車事業に割り当てる投資が減り、ホンダとタッグを組んでいたビジネスが頓挫してしまったのだ。

 あるホンダ技術者は、「最近のパナソニックは、モビリティ領域で何をしたいのか、どの技術のまとまりで生きていくのか、将来戦略が分からない。パナ社員自身がパナソニック(の自動車事業)は本当に大丈夫なのでしょうかと尋ねてくるくらいだ」と明かす。この技術者は、パナソニックから届いた電話の相談くらいにはのるつもりでいるものの、「何かできませんかではなく、心を揺さぶられる提案を持ってきれくれないとーー」(同)と肩をすくめる。

 まさしく、このエピソードはパナソニックが抱える「病巣」を象徴している。パナソニックのモビリティ領域は、オートモーティブ社(車載機器)や本社直轄のモビリティ事業戦略室など主たるものだけでも五つの組織に分散しており、しかも連携が取れていない。また、自動車事業に対する社としての投資方針がコロコロ変わるので、ホンダなど顧客企業からの信頼が揺らいでいる。

 その根源にあるのは、事業部の縦割り、内向き志向の組織、人事の硬直性にみられる「パナソニックの呪縛」である。“転職組”のあるパナソニック中堅幹部は、「パナソニック社員の頭の中の“少なくない割合”が社内政治で占められている。仕事を進めるために、まずは社内に味方を作らなければならない」と打ち明ける。別の転職組社員は「官僚よりも官僚的。事業部が強い縦割り組織で、合理的にパナソニックの全体最適を目指すことが難しい」ともいう。

 そうした内向き志向が変化対応力を削ぐ鎖となり、パナソニックが自縄自縛に陥っているというのだ。このパナソニックの呪縛をひも解くにはまず、パナソニックの組織再編の要諦を理解しておく必要があるだろう。

 10月1日、26万人のグループ社員の将来を決める大改編が控えている。いよいよ、6月末に就任する楠見雄規「社長」率いる新体制がスタートする。来年4月に発足する持ち株会社体制を踏まえて、それにぶら下がる分社化された事業会社の「責任と権限」の所在を明確化する。キーワードは、自主責任経営の徹底だ。

 もっとも、大改編の「その先」に待っているのは、パナソニックの組織解体をも辞さない“大外科手術”かもしれない。そのくらい創業103年の歴史ある巨大組織に自浄作用を働かせることは難しい。

 今回の組織再編シナリオには、二つの注目点がある。一つ目は、主力の事業会社4社の社長人事である。特に、売上高4兆円弱の大所帯となる家電事業会社(パナソニック株式会社。持ち株会社のパナソニックホールディングスとは別物)と米サプライチェーンソフトウエア企業を買収した現場プロセス事業会社(パナソニック コネクト)のトップ人事は、事業規模が大きいだけに重要だ。

 二つ目は、「自主責任経営を徹底できない=自立できない」と判断された身売り・撤退事業の中身である。

 楠見新社長が描くグループ最終形とはどんなものなのだろうか。