第二には、課題解決そのものの難度の上昇である。遅咲きさんは、対課題よりも対人能力が高いことをもって頭角を現してくる。そして上級管理職になれば、自分で課題解決をせずとも、使える部下がたくさんいるから、優秀な適材に課題解決案を出してもらい(もちろん部下がベストなパフォーマンスを発揮できる環境を整え、励まし、背中を押すのがうまいことが重要)、その中で良いと思えるものを選択すればよかった。

 しかしながら、初級管理職くらいでは、自分の使える人的リソースは限られる。たまたま優秀な部下がいればよいが、そうでなければ自分で課題解決をしなければならない。現在は、新技術の活用や業種の垣根を越えた競争などで課題解決の難易度が高くなり、若くリソースがない時点での遅咲きさんにとっては酷な状況になっているのだ。

 第三は、人事制度がジョブ型的になり、ポジションごとの要件が明確化されてくる中で、学歴や資格または過去の実績など、数値化できるキャリアがこれまで以上に重要になってくることだ。本当の意味でのジョブ型に転換する会社は少ないかもしれないが、時代の空気でなんとなくジョブ型っぽい運用が行われる。

 そうなると特定の分野で大学院の修士号があり、入社後に具体的にどんな業績があった……というような目に見える形の結果を残しているほうが、ポジションに適合しやすくなる。その意味では才気煥発系の分かりやすい人たちが有利だ。アメリカやヨーロッパのような学歴重視の人事制度の運用になると、遅咲きさんは多くの場合、相対的に不利になるだろう。

 以上のような理由で、遅咲きさんにとっては、しばらく厳しい状況が続くことが予想される。

本当にあった
すごい遅咲きさんの話

 少し個人的な経験も述べてみたい。ある成長業界のトップ企業で「幹部候補選抜研修」という名の研修を行っている。その企業には、経営幹部候補者のプールがある。その候補者向けにこの研修に参加したいかどうかの希望を募り、希望者だけが参加できる仕組みを作っている。幹部への登竜門と言ってもよいだろう。

 研修の1年目のこと。有望で優秀な人たちばかりが集まっている中で、ひときわ輝いて見える人に出会った。仮にAさんとしよう。Aさんは、周りの人たちが自分の優位性をアピールする中で、その人たちの話に懸命に耳を傾け、分かりにくい部分を言い換えて確認し、皆の強みを上手に引き出すことに傾注していた。すると途中から、参加者の誰もがAさんに理解してもらおうと必死に話をするようになり、あらゆる討議がAさんを中心に行われるようになった。つまり、Aさんは参加者中の事実上のリーダーになったのだ。抜群の聞き上手であり、参加メンバーに対する細やかな気遣い、そして課題達成に向け意見を調整する力が抜群であった。むろん単なる「調整係」というのとは全く違う。

 実はAさんは、研修前の段階では候補者として優先度のあまり高くない母集団に入っていたという。それがこの研修を経て、「この人は、将としてはそこそこなのかもしれないが、『将の将たる器』があるのかもしれない」という結論になり、幹部候補としての優先度が最高レベルに上がった。現在Aさんは、難易度が高く、多くの人を束ねる業務を担当し、順調に成果を上げている。