冒頭に「大きな謎」と紹介したが、女性に対する嘱託殺人事件の段階で、背景や今後の見立てなどについて、情報交換していた筆者の後輩である全国紙社会部デスクが「なぜ、安楽死について関心がなさそうだった山本容疑者が、大久保容疑者に協力したのか。そこが不可解だ」と首をひねっていたためだ。筆者も同感だった。

 両被告が起訴された段階でその疑問について配信しているので、「ALS患者嘱託殺人事件で医師2人を起訴、単独犯ではなく共謀の謎」をご参考としてご一読いただきたい。

 2人は大久保容疑者が弘前大、山本容疑者が東京医科歯科大の医学生時代に知り合ったとされる。大久保容疑者は卒業後、厚生労働省に入省し、医師国家試験を担当する「試験専門官」を務めていた。一方の山本被告は大学を中退し、海外の大学を卒業したと申請。国家試験を受験し、医師免許を取得したが、京都府警の捜査では「卒業」の事実は確認されなかったらしい。

 つまり、大久保容疑者の手続きによる医師免許不正取得の疑惑が浮上していたのだ。

一緒に悪事を働くことで
生まれる奇妙な連帯感

 前述のデスクから「山本容疑者は借りがあるから『手伝え』と言われて断れなかった、ってことですかね?」と尋ねられたが、筆者は「ちょっと動機として弱くないか?友人同士で一蓮托生ではあるだろうけど、不正をしたのはお互いさま。報酬を受領して嘱託殺人って、医師免許はく奪どころかムショ行きだろう。そんなヤバイ橋を渡るかな?」というやりとりをしていた。

「一蓮托生」という表現を使ったが、読者の方にはいろいろなニュースで「なぜこの事件で、この人が加担したのだろう?」ということを感じたことはないだろうか。筆者もいろいろな事件を取材し、裁判を傍聴して感じるのは「手をつないで一線を越えると(一緒に悪事を働くと)、奇妙な連帯感が生まれてしまう」ということだった。

 前述のデスクには「京都は京アニ事件(19年7月、36人が死亡した京都アニメーション放火殺人事件)もある。いずれも捜査1課だから、京都のサツ回りの記者たちは、ソーニ(捜査2課、汚職や選挙違反などを担当するセクション)もソタイ(組織犯罪対策各課)も、セイアン(生活安全部)もという中途半端な取材はやめて、1課に全面シフトすればいいよ。ほかのネタは他紙に抜かれても『ゴメンなさい』で」とアドバイスした。

 話を元に戻す。まず今回の嘱託殺人事件をもう一度、簡潔に整理したい。