『古畑任三郎』と『刑事コロンボ』
似ているけれども決定的に違う点

『刑事コロンボ』は、1970年代に日本でもブームを巻き起こした刑事ドラマで、倒叙(とうじょ)型の推理ドラマ形式を導入したことが人気の秘密でした。犯人は最初にわかっていて、それをさえない刑事コロンボ(演じたのはピーター・フォーク)が追い詰めていく。どうやって犯人であることがわかるのかが、ドラマの見どころです。

『警部補・古畑任三郎』は、この『刑事コロンボ』のヒットの法則をベースにした作品でした。毎回、有名俳優が演じる犯人はさまざまな業界のエリートで、何らかの事情から殺人を犯すが、自信たっぷりにそれを隠蔽(いんぺい)していく。対決する古畑任三郎はクセのある刑事で、のらりくらりと犯人のワナをかいくぐりながら、最後に真相に到達する。ここまではコロンボと似ています。

 しかし、ここに田村正和さんと脚本の三谷幸喜さんが登場することで、中身はずっとすてきな内容へと変化していきます。

 三谷幸喜さんの当時の状況についても書いておきます。1994年当時、三谷さんはまだ30代前半で、活躍はされていましたが、今ほどの売れっ子ではなかったと思います。深夜ドラマの『やっぱり猫が好き』や映画『12人の優しい日本人』などの作品で、同世代の若者に強い印象を残していたと記憶しています。

 私が三谷幸喜さんという存在に気づいたのは、映画『12人の優しい日本人』が最初でした。架空の陪審員裁判のシーンで、被告が叫んだ言葉が「死んじゃえ!」なのか「ジンジャーエール」なのかを問うシーンを見て、「トリッキーな脚本を書く人だな」と感じた記憶があります。

『刑事コロンボ』と同じ路線ながら、違ったテイストで『古畑任三郎』がヒットしたポイントは、三谷幸喜さんの独特の脚本と田村正和さん演じる古畑任三郎のクセの強さにあったのは、間違いないでしょう。