商社非常事態宣言#14Photo:Klaus Vedfelt/gettyimages

成果を重視した評価体系への傾倒や、若手人材の抜てき、所属する事業部にひも付いた「背番号」の廃止など、総合商社が次々に人事制度の抜本的改革に着手している。特集『商社 非常事態宣言』(全15回)の#14では、各社の新人事制度から、これからの商社パーソンの「出世の条件」を探った。(ダイヤモンド編集部 田上貴大)

三菱商事が約20年ぶりに人事制度改定
「業界のプロ」ではなく経営人材育成狙う

「この部長ポストは彼に任せたい」。一つの人事案が、俎上に載せられた。三菱商事の人事部長や経営企画部長ら本社幹部、それに全10グループの人事部長が勢ぞろいした会議を、緊張感が包む。しばらくして一人が口を開く。「会社全体として、本当に彼が最適なのか」――。

 2019年4月から、三菱商事で毎月開催される「人材開発会議」では、このような議論が繰り広げられている。

 きっかけは、三菱商事が約20年ぶりとなる人事制度の大刷新に踏み切ったことにある。それ以来、冒頭の人材開発会議は、誰をどのポストに配置するか、ポストに付随する職務が適切か、新制度に課題はないかを侃侃諤諤と討論する場に変わった。

 人材開発会議で39回、上位のHRD委員会で8回の議論を重ねて決定された新人事制度は、三菱商事の社員が「目指すべき人材像を再定義した」(三菱商事執行役員人事部長の河手哲雄)ものだ。

 三菱商事に限らず総合商社は、資源や電力、食料など扱う商材によって縦割りの組織が固定化されてきた。入社後、最初の配属先部署の看板を生涯背負い続ける「背番号制」が常であり、各業界の商材や商慣習を熟知したプロになることを良しとしてきた。

 だが、総合商社が商材の取引だけでもうけていたのはかつての話だ。今、総合商社の屋台骨を支えるのは、事業会社や資源権益への投資によって得られる利益である。

 必要とされるのは、経営する企業の価値を向上させ、三菱商事に還元する利益を最大化できる人物である。「業界を詳しく知っていることは必要条件で、絶対条件ではもうない」。河手は断言する。