最低賃金の引き上げは
失業や政府のサービス低下につながる

 もし日本で最低賃金を1500円に引き上げると、経済学的にはヨーロッパと同じことが起きるでしょう。企業はなんとか人を雇わずに経営をしようと、デジタルトランスフォーメーション(DX)への投資をさらに加速させて、日本全体で求人が恒久的に減ってしまうはずです。そして少なくなった仕事を若者が奪い合う、“求職ウォーズ”が社会問題になる。それでは本末転倒の未来でしょう。

 しかし、それを回避する経済政策もあります。国が下限価格統制を行うと必ずその商品はだぶつきます。

 例えば、酪農が盛んなデンマークではバターに下限価格が設定されています。デンマーク国内ではバターの価格が高く、結果としてバターが余ってしまいます。それを国が買い上げて、安い価格で海外にバラまくことを画策します。こうしてできたのが、スーパーで安く売られているデンマーククッキーです。

 日本の場合、最低賃金を引き上げると余るのは、バターではなく労働力です。そこで、政府が余った労働力を買い上げることになります。結果として政府が無理に仕事を作る政策が横行します。道路を掘ったあとで埋めるとか、デジタルをやめて紙で処理する仕事を増やすなどして国民のために仕事を確保するわけです。

 それで何が起きるかというと、政府のサービスが低下するのです。今、政府が脱ハンコとか言い出していますが、そもそも日本の行政に紙とハンコが多すぎるのは、雇用を維持する必要からです。それを行政改革やデジタル庁で変えていこうというのであれば、雇用は減ることになります。つまり、政府を効率化したいのであれば、最低賃金は引き上げるべきではないという話になるのです。