1926年に米国シカゴで創立された世界有数の戦略系経営コンサルティング会社、A.T.カーニー。同社史上最年少で日本代表に就任した関灘茂氏と対談するのは、「お金の課題をテクノロジーで解決する」「すべての人のお金のプラットフォームになる」ことを掲げて2012年にマネーフォワードを創業、国内を代表するフィンテック企業にまで成長させた辻庸介氏。新規事業で陥りがちな問題とは? また、リーダーに求められる「2つの能力」とは?(構成/ダイヤモンド社編集委員 長谷川幸光)
新規事業はなぜ
軌道に乗らないか?
A.T.カーニー日本代表 関灘茂氏(以下、関灘) 多くの大企業には、常に「イノベーションを起こさなければ」という危機感があり、「新規事業を始めなければ」「でも誰に任せるべきか」といった議論が起こります。
しかし、その多くは既存の組織文化や「暗黙の前提」のカベに阻まれます。辻さんがよくご存じの金融機関の多くも、組織文化のカベに阻まれることが多いと思います。それゆえ、出島のような組織をつくって、外部から人材を登用するなど、自由度を与えて試してみるというケースもよく見ます。
とはいえ、大企業の中で新たな事業が創造され、それが軌道に乗っているという話は限られています。これは何が問題になっていると辻さんはお考えになりますか?
マネーフォワード代表 辻庸介氏(以下、辻) 新しい事業は難しいです。シンプルに難易度が高い。難易度が高いことに成功できる人がまずそんなにいませんし、成功体験を持つ人も少ないんです。
以前、顧問として呼ばれた企業で、社員から新規事業についての案が出たのですが、役員のかたが偉そうにその案にダメ出ししていたんです。だから私はちょっと腹が立って、「新規事業に成功した経験があるわけでもないのにダメ出しなんてすべきではない。もっとどうやったらできるか、案を出しましょうよ」と言ったんです。場はシーンとしてしまいましたが……。でも(案を出した人が)かわいそうじゃないですか。やってみないとわからないのに、案の時点でダメ出しなんて。
どこかで撤退ラインを決めて、高速回転で実施してみる、ということならわかります。でも役員のフィルターを通過したものを実施したところで、新規事業なんてなかなか生まれません。何が成功するかなんてやってみないとわからないんです。
フェイスブックだって、言ってみれば初めは、学生向けのただのデータサイトですからね。ノリでローンチしてみたら、どんどん成長して大成功しましたが、もしどこかの企業が新規事業として役員に同様の案を見せたとしても、OKなんて出ないでしょう。
関灘 新規事業に失敗はつきもの。高速でチャレンジし、試行錯誤すべき、ということですね。
この10年間で3つの新サービスを成功させたある企業に、「成功までにどれくらいアイデアを絞り出したのですか?」と聞くと、「約1000個だ」とおっしゃっていました。そのうち、いくつも挑戦して、生き残り、成功といえる水準に達したサービスが3つ。まさに1000に3つ。センミツです。成功なんてその程度の打率だと。この10年の試行錯誤からの学びが大きく、今後は1000打席3安打から成功確率は高められるとのことでした。
辻さんは現在に至るまで、やはりかなりの数の打席に立ってきたのでしょうか?
辻 私たちの代表的な製品であるクラウド会計ソフト「マネーフォワード クラウド」や家計簿アプリ「マネーフォワード ME」も、軌道に乗るまでにものすごい数の失敗をしてきました。
現在、私たちのサービスは約30ありますが、リリースに至らずに撤退したものもありますし、会社もいくつか畳みました。1000はいきませんが、大小の失敗を数えると数百個はあるかもしれません。
1000個チャレンジすることや打率の低さ以前に、新規事業を行う上で大きな問題があります。