朝練ではなく「3分間作文」
非根性主義の恩師が課したトレーニングとは

 多田は2012年春に、陸上部が創部されて間もない大阪桐蔭高校に入学した。待っていたのは、強豪校や名門校とは明らかに一線を画した、独特の練習方法だった。

「非根性主義」を第一に掲げていた陸上部の監督だった花牟禮武氏(現・株式会社アスリートワン代表取締役)は、朝練習を一切行わなかった。代わりに毎朝ミーティングを行い、ユニークかつ独特なメンタルトレーニングの数々を部員たちに課した。

「例えばギプスを巻いていたら、使われない筋肉はだんだんと痩せ細っていきますよね。それと同じように脳を使わなかったら、いざ緊張やストレスが高まったときに、目の前のことに集中できないような状態が作り出されると思うんです」

 持論を語ってくれた花牟禮氏が、いかにして部員たちに脳をフル稼働させ、あれこれと考えさせるために思いついたメニューのひとつが「3分間作文」だった。

 何の前触れもなく花牟禮氏が設定した題目に対して、3分間でどれだけ自分の考えをつづれるか。日誌の裏面に500文字分のスペースを設けて毎朝作文を書かせた。

「試合の前日ならイメージングに、翌日ならばフィードバックにもなりますからね。平均すればみんな300文字くらいは書けていたんじゃないかな。もちろんきれいな文字じゃなければダメでしたけどね。多田が何文字くらい書いていたのかはちょっと忘れてしまいましたが、何かのメディアの取材に対して『高校時代の日誌が役に立っています』と答えていたのを見ました。日誌とは実はこの『3分間作文』のことなんですよ」

 それぞれの考えを限られた時間内で文字化させるメニューの意図を、花牟禮氏はこう説明してくれた。もちろん、脳を鍛える独特のトレーニングはまだまだ用意された。