積極的にもうけようとするのではなく
購買力を維持すること

 投資の目的は大きく分けて二つある。1つは「積極的にリスクを取ってもうけようというやり方」、そしてもう1つは「自分のお金の購買力を維持する」ということである。前者の場合、投資経験のない退職者にとってはあまり向いていないといえるだろう。前述したように他にも十分な金融資産を持っていて、退職金そのものが完全な余裕資金という位置付けであるなら、こういう積極的にもうけを狙うということはやってもいいと思う。しかしながら、投資経験に乏しいとか、退職金自体は将来の生活、医療、介護といった事態に備えるという考え方であれば、後者の「お金の購買力を維持する」という方法で投資をするのがいいだろう。

「お金の購買力を維持する」というのは、将来物価の上昇があってもそれをカバーできるようにするということである。公的年金は基本、賃金や物価に応じてスライドするのであまり気にする必要はないが、今自分が持っているお金は何もしなければ将来インフレになった時に価値が下落してしまう。購買力を維持するというのは、つまりお金の価値を維持するということである。

 そのために最もふさわしい方法は、世界中の株式に少額で積み立てをするなど、グローバルに分散投資をすることだろう。もちろん価格変動のリスクはあるものの、日本とかアメリカとか中国といった特定の国に投資するのではなく、世界中の株式市場に対してその規模の割合に合わせて分散投資するわけだから長期的には世界経済全体の成長を享受することができる。今の時代はそういうことがごく少額の金額でできる投資信託がたくさんある。

  お金の購買力を維持することを一番の目的にするのであれば、この方法が最適だろうと思う。また購買力は維持したいが、リスクを取るのは全く嫌だということであれば、「個人向け国債変動10年」に投資をするのがいいだろうし、期間の短い(1年程度)ものであれば定期預金だってそれほど悪くはない。いずれ物価が上昇する時期になれば金利だって上昇するからだ。

 いずれにしても退職金というまとまったお金を手にしたことで気分が高揚し、よく考えずに「増やしたい」という気持ちだけで投資することだけは避けるべきだろう。

(経済コラムニスト 大江英樹)