2010年代に入ってから首都圏の大手私鉄を中心に、ロングシート(窓を背にしてすわる横長のシート)とクロスシート(進行方向もしくは反対側を向いているシート)の両方を設定できる二刀流座席「デュアルシート」の導入が進んでいる。おもにロングシート設定時は一般列車、クロスシート設定時は有料列車として運行され、“簡易優等車両”という役割を担う。その車両をご紹介しよう。(レイルウェイ・ライター 岸田法眼)
デュアルシートを開発した
近畿日本鉄道の狙い
デュアルシートの歴史をひもといてみると、最初に導入したのは近畿日本鉄道(以下、近鉄)だ。1996年に開発し、まずは2610系を改造した。
近鉄の急行は大阪上本町―五十鈴川間、近鉄名古屋―鳥羽間など、100キロ超の長距離列車があり、通勤形電車の一部は4ドア車ながら、セミクロスシート(ボックスシート&ロングシート)、トイレ付きとしている。
しかし、ラッシュ時はクロスシートの通路幅が狭く、多くの乗客が収容できない、乗降に時間を要するなどの課題があった。
そこでボックスシートより快適な回転式クロスシートの居住性、ロングシートの乗車効率を両立させたデュアルシートを開発。試験運用したところ、良好な結果を得られたことから、既存車の追加改造や新型車両の開発に踏み切った。
また、JR東日本も2002年に仙石線用205系3100番台の一部をデュアルシート化し、「2WAYシート」と銘打つ。朝夕は通勤ラッシュ、日中は松島や塩釜といった観光客輸送の両立を図った。
あらゆるシーンに対応できるフレキシブルな座席が、のちに簡易優等車両として発展する。