誤解(2)ワーケーション中の仕事は
パフォーマンスが上がらない

「どこでも、いつでも」働くことを認める仕組みを採用する場合、ワーケーションは私たちの仕事のパフォーマンスを本当に上げるのかという疑問が浮かんできます。

 自宅から離れて非日常の場所を訪れると確かに気分転換にはなります。でも観光地のさまざまな誘惑に打ち勝ちつつ仕事をするよりは、オフィスや自宅の方が気も散らず、集中できると考える人も多いでしょう。またワーケーションを行っても、仕事に積極的なプラスが見込めるとは思えないので、あえてワーケーションを行う必要はないと考える人も多いかもしれません。

 しかし実証実験では、ワーケーションを行うことで仕事のパフォーマンスが上がることが明らかになっています。

 2020年6月に、NTTデータ経営研究所、JTB、JALが連携して沖縄県のカヌチャリゾートで行ったワーケーション実証では、自宅から離れたリゾート先で仕事をすることで、仕事の生産性が上がり、メンタルの改善につながるだけでなく、組織に対するコミットメントも向上するという結果が得られました。またワーケーションによってもたらされた仕事のパフォーマンス向上は、ワーケーション終了後1週間も持続し、残存効果が認められたといいます。

 ではなぜワーケーションを行い、非日常の場所で仕事をすると、仕事のパフォーマンスが上がるのでしょうか。その一つの理由として挙げられるのは、生活圏を離れて非日常の場所に行くという移動そのものが、私たちの生産性やクリエイティビティーを向上させるということです。

 実は、距離の感覚は私たちのクリエイティビティーに大きな影響を与えることが、研究の結果から明らかになっています。

 心理学者リル・ジアらは学生を二つのグループに分け、一連の問題を解かせる実験を行いました。その際、大学のあるインディアナ州で考案された問題であると伝えたグループよりも、インディアナ州から約3200キロメートル離れたカリフォルニア州で考案された問題であると伝えたグループの方が、それ以外の情報や条件は全く変わらなかったにもかかわらず、問題解決の成績が格段に高かったのです。

 このテストは、解釈レベル(CLT)理論をベースとしています。CLT理論とは、距離の認知が人間の考え方に大きな影響を及ぼし、「距離的に遠く感じられる」物事ほど、より抽象的に思考することが可能になるという考え方です。学生たちは「距離がある」という感覚を持つことで、はるかに幅広い選択肢を検討するようになり、そのことが問題解決能力の差として表れたのです。

「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」というジェームス・W・ヤングの有名な言葉があります。既存の要素の新しい組み合わせを見いだし、新しいアイデアを生み出すためには、新しい視点を持ち、物事の見方を変える必要があります。CLT理論は、日常生活を送っている場所と物理的・心理的な距離感を持つだけで、新しい視点を持ちやすくなる可能性を示しています。

 このことをワーケーションに当てはめて考えてみましょう。ワーケーションは日常生活の場から離れたところに移動するため、普段とは異なる視点で物事を捉えることができやすくなります。その結果、普段の仕事では思いつかなかった新しい発想が生まれる可能性が高まります。Zアカデミア学長の伊藤羊一氏は、何年も前から「ひとり合宿」という名のワーケーションをしていると述べています(※2)。そして「ひとり合宿」を行う際はなるべく会議や作業を入れず、普段の仕事の振り返りや、企画に没頭する時間に充てることを大事にしているそうです。

 このようにワーケーションの方がオフィスや自宅で仕事をするよりも仕事のパフォーマンスが上がるケースがあることを理解し、仕事のテーマによってうまく場所を使い分けることが、これからの私たちにとって大事になってくるのではないでしょうか。