「本当にそのやり方でいいのか」と疑問を持つ
林教授 あの本で、ボクはその点を強調したかったんだよ。なぜ売掛金は資金の運用なのか、なぜ買掛金は資金の調達なのか。多くの学生は深く考えようとしない。『会計の教室』は、そんなことばかりを書いたんだ。すると、読者からは「簡単すぎであくびが出る」とか「初歩の初歩」とかあまり評判が良くなかった。今の会計の教育の弊害だね。ボクはそういうことを書く人たちにこんな質問をしたい。
「Q.会社の事業部門に本社費を配賦するときの基準として、売上高を使うのは正しいか?」
林教授 ちなみに、多くの大企業は売上高基準を使っている。田端君はどうかんがえるかな?
田端 すみません。本社費ってなんでしょうか。
林教授 経営企画室、経理部、人事部、情報システム部など会社全般にかかわる部門の費用だ。
田端 一般管理費ですか?
林教授 そう考えていいだろう。
田端 それであれば、売上高基準でいいのではないでしょうか。わかりやすいし配賦計算が簡単です。
カノン 大企業も売上高基準を使っているんですよね。しかも、管理会計のテキストにも確かそんな事が書かれていました。
上野 ボクも二人と同じ考えです。
林教授 おいおい君たちは脳細胞を使っているのかね。大企業の事例や会計のテキストを鵜呑みにしているのじゃないかね。
カノン 間違いですか。
林教授 考えてもみたまえ。薄利多売の事業部より売上金額が少なくても利益率が高い事業部の方が本社費の負担が少ないんだよ。事業部利益は個々の事業部の活動だけではなく、本社部門の支援がなくては実現しない。となれば、本社費を構成する各部門の費用は、それらの部門の各事業部に対する貢献度を配賦基準とすべきではないだろうか。
カノン たとえば?
林教授 人事部の費用ならば事業部門の人数割とかね。
カノン そうか。売上高基準だと、経営企画室の部門費も売上高の割合で各事業部に反映されるのですよね。
林教授 おかしいよね。ある事業部に対して、特別の戦略を立てた成果が利益率にあらわれたかもしれない。売上高基準はどう考えても合理的ではない。
上野 難しい話になってきましたけど、要は「本当にそのやり方でいいのか」と疑問を持つことなんですね。
林教授 いいことをいうね。その通りだよ。