DXとは、進化したデジタル技術を浸透させることで、
人々の生活をより良いものへと変革すること
カノン じゃあ最後に、デジタルトランスフォーメーションについてショートレクチャーをお願いします。
林教授 DX(デジタルトランスフォーメーション)は、スウェーデンのエリック・ストルターマン教授によって提唱された概念だ。その内容は「進化したデジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革すること」だ。
カノン そうなんですね。
林教授 DXの狙いは「既存の価値観や枠組みを根底から覆すような革新的なイノベーションをもたらすこと」なんだよ。単なる一部のリプレースではダメで、抜本的に総取り換えしなければならないということだ。
田端 根こそぎおきかえるのですか?
林教授 そういうことだ。DXにより何が実現できたか。今日注文した商品が明日には自宅に届く。南米の鉱山では無人のブルトーザーが昼夜作業をする。プリンター用のインクカセットが無人工場で生産されている。ところが、日本企業や公官庁では未だにハンコとエクセルが全盛だ。認めたくはないが、これでは諸外国に置いていかれるのも仕方がない。そこで、遅まきながらDXの動きが出てきた。以下は、7月7日付の日本経済新聞の記事と図版だ。
「事業構造改革に向けて社員にデジタル関連などの再教育をする企業が増えてきた。キヤノンは工場従業員を含む1500人にクラウドや人工知能(AI)の研修を実施する……」
カノン 日本人って動き出すと一気なんですね。
林教授 DXは奥が深い。この程度では安心はできない。加えて、デジタルデータはリアルタイムで収集されて活用される。それを可視化するツールが会計だ。ボクは、DX時代に静止画的管理会計は古いと思うね。
上野 確かに。でも人流をスマホの位置情報で把握できる世の中ですから、自社内の動きをリアルタイムでつかむのは、それほどハードルは高くなさそうですね。
林教授 管理会計は、このDXをキャチアップしながら進化しなくてはならない。
カノン でも、管理会計はそこまで進んでいないんですよね。
林教授 まだ始まったばかりだ。あわてることはない。DXと管理会計をリアルタイムでつないで会社の経営に生かすことができれば、日本企業は再びよみがえる。ボクはそう信じている。
カノン 武者震いがするわ。私たちの出番かしら。
林教授 そう期待しているし、できると信じている。そのためには、基本をとことん考え抜くことだ。
カノン はい。さらに『会計の教室』を読み直してみます。
公認会計士、税理士
元明治大学専門職大学院 会計専門職研究科 特任教授
LEC会計大学院 客員教授
1974年中央大学商学部会計学科卒。同年公認会計士二次試験合格。外資系会計事務所、大手監査法人を経て1987年独立。以後、30年以上にわたり、国内外200社以上の企業に対して、管理会計システムの設計導入コンサルティング等を実施。2006年、LEC会計大学院 教授。2015年明治大学専門職大学院 会計専門職研究科 特任教授に就任。著書に、『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』『美容院と1000円カットでは、どちらが儲かるか?』『コハダは大トロより、なぜ儲かるのか?』『新版わかる! 管理会計』(以上、ダイヤモンド社)、『ドラッカーと会計の話をしよう』(KADOKAWA/中経出版)、『ドラッカーと生産性の話をしよう』(KADOKAWA)、『正しい家計管理』(WAVE出版)などがある。