ロジック半導体のプロセスで
独走状態のTSMC

 見方を変えると、今回の報道によって、改めてTSMCの強さが浮き彫りになった。二つの点から考えてみよう。

 まず、TSMCが最先端の半導体生産技術で独走している状況について。TSMCは現在、最先端の5ナノメートルのロジック半導体のプロセスを確立した唯一の企業だ。ファウンドリー市場においてサムスン電子とのシェアで差をつけている。インテルからTSMCへの生産委託が実際に進めば、サムスン電子とのシェア格差は一段と拡大するだろう。

 ただ、逆に言えば、少しでも対応が遅れたり意思決定の機を逸したりすると、シェアの維持と獲得は難しくなる。それほど先端分野の生産技術開発競争は激しい。

 二点目として、半導体への需要は非常に強い。アップルはTSMCが開発を進める3ナノや2ナノのプロセスを用いたチップ生産を予約しているとみられる。AMDやNVIDIA、クアルコムなど一般的に「ファブレス」と呼ばれる米半導体企業にとってもTSMCの最先端の生産ライン確保は収益を左右する。最先端だけでなく、汎用型の生産ラインを用いて生産される車載用のマイコンなども不足している。世界の半導体不足は2023年頃まで続くだろう。

 その状況下、インテルがこのままでは業績拡大のチャンスを逃すとの危機感を強めてもおかしくはない。そのリスクを抑えるために、同社はTSMCの生産ラインを確保して最先端のチップ供給を行いつつ、自社の汎用型のチップ生産体制の強化を目指していると考えられる。

 別の見方をすれば、TSMCへの生産委託を境にインテルは設計と開発により注力しようとしている。いずれにせよ今回の報道によって、最先端の生産技術に関するTSMCとインテルの実力の差は一段とはっきりした。