量子暗号技術で
米中対立が先鋭化

 今後の展開を考えた時、インテルによるTSMCへの生産委託が米中対立に与える影響は軽視できない。既存の半導体生産技術の向上に加え、両国が量子技術の開発を重視していることは大きい。

 専門家の間では、量子暗号技術がITセキュリティーに大きく影響するとの見方が強い。理論的には、スーパーコンピューターと量子コンピューターを組み合わせて運用することによって、より高精度、高速なシミュレーションが可能になる。それは経済運営の効率性を高め、成長を支える。

 その考えに基づき、米上院は量子分野などでの研究開発に290億ドル(約3.2兆円)の補助金を投じる法案を可決した。インテルは「Horse Ridge II」など「極低温量子制御チップ」を開発している。

 中国も軍事、経済両面での活用を視野に量子関連の技術開発を強化し、最先端分野での米中の競合は激化している。量子技術の実現の可能性やタイミングなど不確定な要素はあるが、既存の演算技術を超える新しい技術開発が加速している。その変化を今日の世界経済に当てはめると、量子技術の実用化を支えるチップ生産でもTSMCは重要な役割を担うだろう。インテルはそうした展開を想定してTSMCに生産を委託する可能性がある。

 今後、米国は中国を念頭に先端分野の技術開発支援などを強化し、台湾を自陣営により強くとどめようとするはずだ。人権や製造技術などでの対中圧力も強まるだろう。米国の景気が自律的に持ち直す中、トランプ前政権が導入した対中制裁関税の動向も見逃せない。他方で、中国は国家資本主義を強化して米国に対抗せざるを得ない。半導体などの生産技術が弱みである中国にとって、台湾への影響力の重要性も増す。

 わが国の経済安全保障にとって、最先端の半導体生産に必要な素材や装置創出能力がもたらす影響は一段と大きくなっている。わが国は官民総力を挙げて最先端の技術開発を進め、比較優位性を発揮してきた微細な半導体部材や製造装置の革新を目指すべき時を迎えている。