つまり、新線建設という役割を終え、民営化したはずの東京メトロに、新たな路線の整備を委ねることは可能かという問題が生じてくるのである。

もう一つの問題は
東京メトロの株式上場

 東京メトロにまつわるもう一つの問題が株式上場だ。東京メトロはまだ完全な民営企業ではなく、株式の53.4%を政府が、46.6%を東京都が保有する特殊会社である。特殊会社とは特別法に基づいて設立された会社のことで、東京メトロの場合は「東京地下鉄株式会社法」が根拠法となっている。

 同法の附則第2条に「できる限り速やかにこの法律の廃止、その保有する株式の売却その他の必要な措置を講ずるものとする」と定められているように、政府と都はメトロの株式を早期に売却し、完全民営化を実現するものとされていた。また2011年に成立した「復興財源確保法」も東京メトロ株の売却益を復興財源に充てるとしている。

 しかし、地下鉄整備において東京メトロへの影響力を保持しておきたい都が東京メトロ株の売却に難色を示してきたため、民営化から17年が経過した現在も株式上場は実現していない。

 そうした中、今回の答申は「これまでの閣議決定や法律において完全民営化の方針が規定されていることを踏まえ、東京メトロが東京8号線の延伸及び都心部・品川地下鉄構想の事業主体になることが完全民営化の方針に影響を与えないよう、事業主体となることと一体不可分のものとして東京メトロ株式の確実な売却が必要である」としている。

 ややアクロバティックに思えるこの議論、どういうことなのか。端的に述べてしまえば、完全民営化の障壁となっていた都に株式売却をのませるのと引き換えに、東京メトロは有楽町線と南北線の延伸を引き受けるという妥協案である。